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沖昌之さん

猫写真家 沖昌之さん―“魔が差して”その日のうちに会社を退職、そして

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沖昌之さんといえば、SNS総フォロワー数35万人以上(2022年10月時点)を誇る大人気猫写真家。発行部数5万部を超えるヒット作となった『必死すぎるネコ』をはじめ、写真集は17冊を出版し、いずれも大きな注目を集めています。

今回はそんな沖さんに、猫写真家となったきっかけから今後の展望、そして独自の撮影方法などをお伺いしました。取材最後にご本人による“PV”も撮影させていただいたので、そちらも要チェックです!

猫写真家になったのは“魔が差した”から

沖昌之さん
(猫写真家 沖昌之さん)

―早速、猫写真家になったきっかけをお伺いしてもいいですか?

沖昌之さん(以下、沖さん):30代半ばのころに、当時勤めていた会社を魔が差して辞めてしまったのがきっかけですね。

だいたい会社を辞めるときって、「次の会社が決まりました」みたいな報告があって退職する、というのが主流だと思うんですけど、ある朝急に魔が差して、すぐに辞表の書き方を調べて、会社にあるA4用紙やら封筒やらを使ってその日の昼に社長に渡して……、それで辞めたんです。

そのあとは家に帰って夕方まで寝て、当たり前ですけど目を覚ましてもなにも変わっていなかったので、「なんかやらかしたなー、どうしよう」って思いましたね(笑)。

その1年くらい前から趣味でねこの写真を撮っていたんですよ。
SNSに毎日2枚投稿する、といった感じで自分なりにがんばっていたときもあったので、Facebookなどでつながっている、会社に勤めていたころのお客さまにも応援していただいていて……。

でも辞めたことで「どうしたの?」と心配されてしまってるような気になったんですよ。
それで「このままにしていたらいずれ怒られるな」と思って、なにかしら一生懸命がんばっていることを示そうと「猫写真家」と名乗りはじめました。

―「心配させたくない」ではなく「怒られたくない」という気持ちから活動を開始されたんですね(笑)。

沖さん:仲良くしていただいているお客さまは僕より年上のお姉さま方が多くて、弟や子どものように接してくださっていたので、「絶対に怒られる!」と思いました(笑)。

でも写真家って国家資格が必要なわけでも、試験を受けなきゃいけないわけでもないじゃないですか。
「言ったもん勝ち」って言うと表現が良くないかもしれないですけど、だからこそ僕がそう名乗ってしまったら、いろんな方からお叱りをいただくだろうな、と不安でしたね。

自分の中に「写真は好きで一生懸命やっているけれど、だからといって写真家を名乗っていいのだろうか?」という疑問がずっとありました。
それでも、お客さまに怒られたくない一心で、猫写真家としての一歩を踏み出したわけです(笑)。

―急に会社を辞め、一人で活動を行うことに不安はなかったですか?

沖さん:いやー、不安しかないですよね。
なんの保証もないし、そもそも写真家ってどうやってお金を作るの?って感じでした。

お風呂に入っているときもトイレに入っているときも、ずっとお金がないことを考えていましたね。
そこで「事業主ってこんなにお金のことで悩むんだな」と思い、辞めた会社の社長に申し訳なさが芽生えました。

きっと経営していくうえでのお金まわりのことで悩むこともあっただろうなー、と。
自分が一人でやっていく段階になって、やっと気づきましたね。

―安定して毎月いただける給料、ありがたいですよね……。

沖さん:本当に思いました。
僕の仕事ってほぼ博打に近い感覚で、相手が対価を決めて、気に入ってくれなかったらそれも発生しないし、そもそも見つけてもらえない、しかも自分で売り込んでも実績がなければ難しいし……。

だから本当に不安でした。
「とりあえず大海原に出て『海賊王になる!』って言ってみたけど、このあとどうするの?」みたいな感じで過ごしていましたね。

―そのころ宣伝活動、営業活動はどのようにされていたんですか?

沖さん:よくわからないまま、とりあえずねこの雑誌やカレンダーを発行している出版社のホームページを見て、お問い合わせフォームに「僕ねこの写真家やってまーす」みたいな感じでInstagramのアカウントなどを送ったりしていましたね。

なにもしなくても声をかけてもらえるって思いたいけど、それは過信しすぎだとも思っていて、なので自分にできることは最低限やろう!と、かたっぱしからメールを送りました。

出版社に直接足を運んで営業される方もいるのかもしれないですけど、僕の場合は、撮影には時間をかけないといいものが撮れない、というルールを自分の中で課していたので、まずは撮影を優先したかったんですよね。

―今でもそういった営業活動はされることありますか?

沖さん:基本的には今はもうしていないですね。
あ、でも先日、長野県にある七笑酒造株式会社さんのお酒のラベルを作れたら最高じゃない!?とふと思いついて、お声がけさせてもらいました。

そしたらちょうど会社の重役が出張で東京にいらっしゃっていて、昨日会えたんですよ。

―すごいタイミングですね!

沖さん:「七笑」というお酒を造られているんですけど、僕の撮ったねこの写真にはたまに笑顔に見えるものがあるので、7匹の笑顔の写真がラベルに貼ってあったらかわいいな、と思って、「こんな感じで笑顔の写真を配置して、写真がこれでー……」とめちゃくちゃ準備して行きました。

……という感じで、直感的に「おもしろそうかも」って思ったときは飛び込んでみますね。
自分がやる気になれる企画は、やっぱりすごく楽しいです。

実はカメラ嫌いだったのに写真家になったのは……

沖昌之さん

―そもそもねこの写真を撮りはじめるようになったきっかけはなんだったのでしょうか?

沖さん:先ほどお話しした会社―M’S STYLEというんですけど―に勤めはじめたのが2009年、31歳のときで、それまで実はカメラが嫌いだったんです。

いわゆる“写ルンです世代”なんですけど、たとえば友だち同士でスキーなどに出かけても、必ず写ルンですの撮影会が始まるんですよ。
まず撮られるのが嫌いで、でも撮る側に回っても「じゃあ交代で撮ってあげるよ」と言われることになるので、撮るのも嫌で、ずっとカメラに触れないようにしていました。

社会人になって、海外から買い付けたブランド服をネットで販売する会社に入ってブツ撮りをすることになり、そのときは社長に言われるまま撮影していたんですけど、その後M’S STYLEに入ったら、社長が写真好きで、そこでいろいろ変わりましたね。

まだあまりネットで買い物をするというのが主流じゃないときから、自分で撮った写真をブログなどで紹介して年間数億円という売り上げを立てていた、仕事のできる女性なんです。

自分も本格的に撮影せざるをえなくなってしまって、最初のうちは怒られながら学んでいたんですけど、徐々に楽しくなってきたんですよね。

当時持っていたのはニコンのエントリーモデルで、シグマの50mmの単焦点レンズ。
単焦点ってやっぱり環境がいいと、とてつもなくいい写真が撮れるときがあって、「これを自分が撮ったのかー」と感動があるんですよ。

それで、いつの間にか写真を撮るのが趣味になっていて、仕事をしながら休日はカフェなどで撮影した写真をSNSに投稿していたんですけど、まぁ“いいね”もそんなにつかないし、プロの人が撮る写真との距離感は自分でわかっていたんです。

でも2013年の大みそか、仕事の休憩に出た公園で、アメリカンショートヘアのような渦巻き柄で、なのに顔はエキゾチックショートヘアみたいにちょっと潰れた感じのねこ―「ぶさにゃん先輩。」って呼んでいるんですけど―と出会います。

ぶさにゃん先輩。
(こちらがその“ぶさにゃん先輩。”/沖昌之さん撮影)
(YouTubeチャンネル「猫写真家 沖 昌之の必死さに欠けるネコ動画」より)

それまで綺麗な顔のねこが好きだったんですけど、その子だけはたまらなく気になって「撮影してみたいなー」と自然に思いました。

ねこは好きだったし、撮ることもありましたが、あまり撮り続ける被写体としては捉えていなかったんですね。
でもこのときに「あ、ねこを撮りたいな」って感じたんですよ。

早速、翌日のお正月の休憩時間に、社長に「ちょっとねこを撮ってきていいですか?」って言って、撮影しに行きましました。
ちょうどそのころ会社でInstagramに力を入れていきたいと社長に言われていたので、その写真を投稿してみたら、海外の人から「こんな写真見たことない!」ってコメントをいただいて……。

「Awesomeって書いてあるけど、なんやねん!」って調べたらめちゃくちゃ褒め言葉で、そういうのがうれしくて、自分が毎日1枚写真を投稿していくなかで、世界のどこかでだれかが喜んでくれるって、なんか最高の趣味だなぁと思い、そこから本格的にねこを撮るようになりました。

37歳で“海賊王”を目指す

沖昌之さん

―“ぶさにゃん先輩。”に出会っていなかったら、いま猫写真家にはなっていないと思いますか?

沖さん:なっていないでしょうね。
僕は本当にぶさにゃん先輩。に人生を変えられたと思っていて、ねこを撮り続けようって思わせてくれて、それをいま継続できていられるのは、本当にぶさにゃん先輩。のおかげなんです。

大学を卒業していないというのもあって、東京に来てから仕事がなかなか決まらないっていうのを経験しているので、だいたい自分はこのくらいの位置にいる人間で、今後の人生はこうなっていくんだろうな、ここから変化なんて起こるはずもないな、って思っていたんですよ。

だから猫写真家になるなんて思いもしなかったし、親もすごくびっくりしていましたね。
2015年の夏前くらいに、新潮社から写真集『ぶさにゃん』が出版されることが決まって、その場でうれしくて親に電話したんですよ。

そしたら「それは詐欺や!」って怒鳴られました(笑)。
M’S STYLEで本格的にカメラを教わって……っていうことも話していなかったので、「そもそもカメラ好きじゃないでしょ!」って。

写真集の発売が決まったという連絡をいただいたのが、六本木にいたときだったんですよ。
そのままその場で親に電話したので、東京の、六本木で、この年になって、こんなふうにして親に怒られることってあるんだ……って思いました(笑)。

だから写真を本格的に始めるきっかけになった社長と、ねこを被写体に選ぶきっかけになったぶさにゃん先輩。には感謝ですね。

―でも社長も、辞職表明して当日の退職をよく受け入れてくださいましたね。

沖さん:いや、社長はすごく止めてくださいました。
僕の性格をわかっているので、絶対に次どうするか決めていないっていうのも知られていて、止まるように言ってくれたんですけど、僕がちょっと当時調子に乗っていたので、全部無視して「もう辞めます!」って飛び出したんですよ。

そんな強引な辞め方だったのに今も仲良くしてくださるのは、社長のやさしさでしかないです。

―いい関係ですね。

沖さん:写真集を出すことができなかったら、この関係にもなっていないかもしれないですね。
「沖っていう、変わった子がいてね……」って噂されているかもしれない(笑)。

株式会社M'S STYLEの代表取締役社長の東紀子さん
(株式会社M’S STYLEの代表取締役社長のひがし紀子さん。撮影に快く応じてくださいました)

―その日のうちに辞めるのは伝説になっていそうですよね(笑)。

沖さん:そうですね(笑)。
でもすごくいいタイミングだったんですよ。

その少し前に、『飛び猫』っていう写真集が有名な五十嵐健太さんから、「渋谷のギャラリー・ルデコで合同のねこの写真展をするから一緒に参加しませんか」って誘われていたんです。

でも展示の仕方もパネルの作り方もわからないので、仕事しながらそういうのを用意するなんて大変そうで、僕はたぶん断るんだろうなーって思っていたんですけど、つい魔が差して会社を辞めちゃったので、急に時間ができて、五十嵐さんに助けてもらいながら参加できたんですよね。

猫写真家と名乗りはじめて、すぐに写真展ができるって、なんだか“それっぽい”じゃないですか。
これはお客さまも怒らないな、と。

―「怒られないこと」をなにより優先しているのがおもしろいです(笑)。

沖さん:いやー、30代半ばで急に無謀なことを言い出したら、年上の人からしたら怒りたいでしょう。

親にも「応援はしたいし、もっと若かったら応援していたけど、あんたの夢はいつ覚めるの?」って言われましたね(笑)。

もともと夢のない子どもだったんですよ。
「夢なんて語り出す人は頭がおかしい」って思っていたので(笑)。

でも、ひがしさんは、大きな夢も小さな夢も全部言うんです。
そのうえで叶えようと努力をして、実際に叶えているんですね。
そういう姿を見ていくうちに「夢って大事なんだな」という気持ちが芽生えてきたんですよね。

でも親は、30半ばから新しいことに挑戦しても、もしそれに失敗したら次の職場が見つからないんじゃないか、と心配だったでしょうね。
弁護士や税理士、そういう安定した職業だったら、そんなに反対されなかったかもしれないです。

同じく30歳を過ぎて夢を見つけた人へ

沖昌之さん

―じゃあ、いま同じように30歳を過ぎてから夢を見つけた人がいたら、「そのまま突っ走れ!」とは言わないですか?

沖さん:ダブルワークを勧めますね。
今の仕事を一生懸命やって、そのうえで自分のやりたいことも一生懸命やって……。

発表の場はいっぱいあるじゃないですか。
そういうところでどんどん実績をつけて、自分がやっていきたいものの対価にお金がちゃんと発生する段階になってはじめて、独立を考えたらいいんじゃないですかね。

なにも生まれてもいない、なにも始まってもいない状態で「僕はこれになる!」って言われたら、たぶん親だけじゃなく友だちも心配すると思います。

お酒の席では「がんばれよー」なんて応援するかもしれないですけど、その帰り道で「あいつ難しいだろうなー」って話しているかもしれない。

―現実的ですね。

沖さん:そうですね、自分はたまたま運が良くて、そして人に恵まれただけだと思っているからですかね。
もう1回同じことをしても、この同じ運がまた巡ってくるかといったら、来ないと思います。

最初に五十嵐さんと写真展ができたことも、そこでやきそばかおるさんというライターの方に記事にして紹介してもらえたのも、その記事と僕のブログを新潮社の編集部の方がたまたま見てくれたのも、偶然でしかないんですよね。

その編集の方は、当時抱えていた仕事が落ち着いたら、次は絶対動物の写真集を発行する!って決めていたそうなんです。
それでアンテナを張っていたんだと思いますけど、僕のブログが目に留まったのは、M’S STYLEのお客さまがランキングボタンを押してくれて1位になっていたからですし。

やきそばかおるさんに書いていただいた記事の中で「次は写真集を出すのが夢です」って話していなかったら声をかけてくれなかったかもしれないし、やること全部がうまくいって結びついたので、魔が差したタイミングがよすぎたんですよね。

沖さん流ねこの撮り方

沖昌之さん

―沖さんのねこの撮り方というと、とにかくじっくり待ち構えるスタイルですが、ねこって動きが読めないので大変じゃないですか?

沖さん:そうですね、基本的に動かないんですよね。
みんなおとなしくて、動かずに寝ている子も多いので、見守っている感じです。

(まさしくねこを見守るような動画です。/YouTubeチャンネル「猫写真家 沖 昌之の必死さに欠けるネコ動画」より)

それで、さっき寝ていた子が毛づくろいを始めた、きょろきょろしてなにかを探しているな、といったときに、その先にあるのが匂いづけしたい枝なのか、大好きな友だち猫なのか、それとも人なのか、など考えながら「なんかしそうだな」と思ったらカメラを構えます。

かといって、「なんかしそう」って思ってもそうは動いてくれないのがねこなので、シャッターチャンスにつながることは滅多にないですね。
まぁそういうところもかわいいんですけど。

ジャンプする気配をずっと出していたのに、工事の音にびっくりしてどこかに行っちゃうとか、そういうことは多いですね。
でもねこの自発的な動きが出るところを撮りたいと思っています。

―次の行動を想像するには、やっぱりよく観察することが大事なんですね。

沖さん:そうですね。僕の場合、もともとねこが好きなんですけど、飼ったことはないんですよ。

いとこや友だちの家に見に行ったり、たまに外にいるねこを遠くから眺めたり、といった立場でしか関わってこなかったので、勝手にクールなイメージを抱いていたんです。

一日中ひとりでどこかにいて、ごはんをもらえるときだけ「にゃ~」って近づいてくる、みたいな。

でもカメラを構えてみると全然違いました。
しっかり喜怒哀楽があって、それが目や耳の動き、毛並みやしっぽに表れるし、態度も露骨に変わるし……。

しかも仲のよしあしも血のつながり関係なくそれぞれあって、仲のいい子はひたすら仲いいのに、仲の悪い相手だと数十メートル先から目が合っただけですごく威嚇したり、そういう関わり合い方も人と一緒だなーと、おもしろいです。

本当に1匹ずつ性格も違うので、ファインダーを通したときに、そういうアイデンティティーのある生き物だということをめちゃめちゃ感じて、外見も最高だけど、ねこのかわいさは内側にこそあるんだ!と思います。

おじさんのねこでも、かわいさを知り尽くしているじゃないですか。
どの年齢でもみんな“かわいい”の極致を知っているのって、すごいと思うんですよね。

そのルックスに甘えず、さらに仕草や態度、鳴き声で“かわいい”をぶつけてきて、“かわいい”を“かわいい”で塗り固めているじゃないですか……。

そういう、いちいちかわいいことをしてくるところを表現できたら、それこそがねこらしさなんじゃないかと思うんです。
だから、その瞬間をちゃんと待ってから撮って、そして発表していきたいと思っています。

―猫愛めちゃめちゃ伝わります(笑)。
1回のショットに最長どのくらい待ったことがありますか?

沖さん:難しい質問ですね……。
僕の場合は、こっちが想像したものではなく、それ以上のことをしてくれたときにシャッターを切れたらいいな、と思っているので、まずそんなに撮れないんですよね。

サイコロを同時に6個くらい振って、全部が6のぞろ目になるくらいの運かなって、勝手に思っています。
僕はそれがいつ出るのかわからなくて、あくまでねこが決めているんですよ。
1枚目で出るかもしれないし、一日ずっと出ないこともあるし……。

でも1分間だけ見ているよりは24時間見ているほうが、ぞろ目の瞬間に出くわせそう、という感覚で撮影していますね。
究極の運試しだと思います(笑)。

“生産者”であり続けたい

ZUCCaとのコラボシャツ
(実は取材の日に着用されていたのは、沖さんがZUCCa(ズッカ)とコラボして制作されたシャツ)

―沖さんって、もちろん写真展もやられていますけど、その写真展もアトラクションみたいに楽しめるもの(※)を企画したり、あと先ほどお話しされていたお酒のラベルや、過去だと今着られているZUCCaとコラボしたシャツなど、ファンも見るだけじゃなくて参加できるものが多いように感じます。

※ 屋外型国際フォトフェスティバル「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」内の企画「『DRIVE EXHIBITION 』powered by YADOCAR-iドライブ」にて、2022年10月8日(土)~10日(月祝)まで、ネズミになった気分で作品を鑑賞できる体験型展示を開催し、ファンを楽しませた。

沖さん:僕自身、自分のことを「野菜を育てている人」だと思っているんですよ。
たとえば写真をもとにグッズ展開するのであれば、その最初の部分。

最高のものをずっと撮り続けていきたいと思っていて、そうすれば、「これを調理したい!」「絶対においしくできる!」という人が現れると考えているんですよね。
そのイメージが形になっているのかな、と思います。

―生産者……、なるほど、いい言葉ですね。

沖さん:今は器用な人のほうが好まれる時代なんじゃないかと思うんですけど、僕自身はねこの写真を撮ること以外はポンコツだと思っています。

がんばればできるのかもしれないけど、もっとちゃんとできる人に任せたいんです。
僕よりできる人なんてごまんといるんだし、もし僕が自分でなんでもやるようになったら、そういうスペシャルな人が現れなくなってしまうし。

当然一人でなんでもやったほうが利益はとれるんですけど、僕はそれより最高のものを作り上げたいんですよ。
そして最高のものは一人では作れないと思っています。

―写真展もどなたかと協同で行っているんですか?

沖さん:アートディレクターの方に一緒に考えてもらいながら企画しています。

京橋にある72Galleryに鈴木雄二先生というアートディレクションをされている方がいるんですけど、その方はすごくいろんな写真展、美術館に訪れていて、展示の仕方を見るのが大好きなんですよ。

一方で僕は展示の作業が苦手。
トンカチを叩くのも、どういうバランスで飾るか考えるのも、写真を選ぶのも一苦労です。

鈴木先生は、写真をもっと体験できるような、来てくれる人におもしろいと感じてもらえる方法を考えてくれる方で、その人と一緒に「どうしたらおもしろくなるかなー?」と楽しみながら作り上げているので、かなり助けられていますね。

―なんだかすごく現代的な考え方ですね。
多様であることが当たり前の世の中なので、一人だけの考えで推し進めるよりも、それぞれ得意分野を特化させて一緒に考えたほうが、よりよいものが生まれると思います。

沖さん:いやー、怠け者なんだと思いますよ(笑)。
本当は自分の作品なんだから、全部自分でやりたいと思うのが普通なんじゃないかと思います。

でもいかんせん僕には世の中で成功した経験がないので、自分の思うように育てて世に出したら、失敗するような気がするんですよね。

―たくさん写真集を出されていますが、まだご自身では“成功した”と思っていないんですね。

沖さん:写真集には、編集者さん、アートディレクターさんが携わっていて、僕だけで作り上げたわけではないので……。

たとえば『必死すぎるネコ』という写真集は山下リサさんというアートディレクターの方にお願いしたんですけど、その方は梅佳代さんの『うめめ』っていう木村伊兵衛写真賞を受賞した写真集のアートディレクションをしていた方なんですよ。

そういう、写真の世界で成功しているプロフェッショナルな方に見てもらうことで、自分自身も納得できるんですよね。

もし全部自分だけで世に発信したときに評価されなかったら、自分の責任ではなく、世の中が自分を理解していない、と思いこんでしまえるような気がするんです。

でも僕自身はそんなたいした人間じゃないって思っているので、できる人に調理してもらいたい。
撮影者である僕がいない場所でも僕の写真をいいなって思ってもらえるには、やっぱりプロの手が必要だと思っています。

ほかの人が選んだ写真には新しい発見がある

沖昌之さん

―そもそも枚数も莫大だと思うので、それを毎回写真集や写真展のテーマに合わせて選ぶこと自体が大変そうです。

沖さん:でも毎日撮影するなかでSNSに上げる写真は都度目を通していて、それがスタメンになりえる候補生になるとは思うんですよね。
だから写真集を作るって決まったら、テーマに合わせてその中から探す感じですね、通常は。

山下さんに関しては、そのとき撮った写真全部を見てくれました……。
当分ねこの写真は見たくないって言っていましたね(笑)。

―ざっくり何枚くらいですか?

沖さん:20万枚以上ですね……。

いつもは自分が選んだ写真をアートディレクションしてもらうんですけど、でもそもそもその選んだ写真に写真家の思いが表れてしまうじゃないですか。
僕は自分が選ぶものを信じていないので、全部見てもらいました。

そうしたら、やっぱり自分が選ばなかった写真も選ばれましたね。
すごく学びになりました。

―そのスタメンとなる、SNSに上げる写真というのはどういった基準で選ばれるんですか?

沖さん:バランスも考えますけど、やっぱりねこの心が見える瞬間ですかね。
お洋服のお店もそうですけど、ディスプレイされているものと実際に買うものって違うじゃないですか。

ディスプレイされているものは結構インパクトの強いもの。
同じようにSNSもそういった点は意識していますね。

写真を撮られるときも、自分では笑顔のつもりなんだけど、「もっと口角を上げて」とか「もっと目を開けて」とか言われるじゃないですか。

言われるとおりにすると、自分では「めちゃめちゃ力が入っていて気持ち悪い人になっているはず」って思うけど、実際に写真を見てみるといい笑顔になっているんですよね。

写真ってそういう伝わりにくいものだと思うので、だれが見ても理解できるインパクトは必要だと思っています。

―ということは、そうではない写真も選ばれたということですね。

沖さん:そうですね、山下さんや辰巳出版の編集の方は、その写真を僕とは別の解釈で受け取ったんだと思います。
お客さまもそれをすごくいいって言ってくれたりしたので、考えさせられましたね。

―それはかなり視野が広がる体験ですね。
自分だけの世界だと、どんなに素晴らしい写真家の方でもやっぱりその世界観を突きつめることになるのではないかと思うので。

沖さん:そうですね、あと自分ひとりで煮詰めていると、どんどん違う味になっていくこともあるじゃないですか。
ほかの人が見ることによって、それが修正されるので、人の目は重要な要素ですね。

それを信じすぎたら、また味がわかんなくなっちゃいますけど。

―たしかに。大事なのは、自分という軸を持ったうえで柔軟に人の意見を聞くことですね。

沖さん:写真教室に通っていたころ、毎月コンテストに応募していたんですけど、ちょうど“やっつけ”で撮影したのに思いもよらずインスタでたくさん“いいね”された写真があったので、それを出してみたことがあるんです。

そしたら高い順位を獲得できてしまって、著名な評論家の方にすごく褒められて、「こういう写真をたくさん撮って写真集にしたらよさそうですね」って言ってくれたんですよ。

それで自分のピントはめちゃめちゃずれているんだなーって思いました。
難しいです。
だからいま公開している写真も、正解かどうかわからないですよね。

―でもどの写真もたくさん“いいね”がついています。

沖さん:もしかしたらもっといいものを隠し持っている可能性もありますよ。

僕が死んだときに、今まで撮ったデータをだれかに渡して、好きに写真集を作ってもらったら、それまで見たことのない素晴らしい写真が出てくるかもしれないですよね。

―じゃあ答えはそのときにしかわからないですね(笑)。

沖さん:つまり僕は一生わからないですね(笑)。

沖さんの思う「成功」とは

沖昌之さん

―ちなみに沖さんの考える“成功”とは、どういうことを指すのでしょうか?

沖さん:うーん、どうでしょう。
最初はやっぱり、ぶさにゃん先輩。を世界で一番有名なねこにしたい、ということを目標に活動を始めたので、タイムズスクエアの電光掲示板にぶさにゃん先輩。が掲載されたら、自分を導いてくれたねこがここまで来たかー、と満足はするでしょうね。

―なるほど、人によって“成功”の位置づけはそれぞれですが、沖さんがご自身を成功していないと言い張る理由がわかりました。

沖さん:なんか人って、ゴール前になると無意識に筋肉が緩まるらしいですよ。

リレーなどで先生がよく「10メートル先まで走りきるつもりで!」って言うのは、どうも正しい理屈みたいなんですよね。
ということは、目標も先のほうに設定しておかないと、止まっちゃうんですよ。

それっぽい目標を立てれば、それ以下になってしまうんです。
そう考えると、やっぱりできるかどうかは抜きにして、「海賊王になる!」くらいの大きな夢を持つべきだろうと思います。

―それは後輩たちにも響くメッセージですね。

沖さん:でも、そういうことを言ったときに、ばかにしない人と出会わないと辛いですよね。
「無理だって~」と笑う人はごまんといるだろうし、その中で真剣に取り合ってくれたり、夢を叶える方法を知っていたりする人に出会えたときに言ってみるのは、成功に近づくかもしれません。

信頼できる人には有言実行

―なるほど、有言実行派ですか?

沖さん:信頼できる人には言うようにしています。
口に出してみると具体的になるので、夢に近づく気がするんですよね。

「こんなこと、できたらよくない?」って話したときに、さらにそのイメージを上乗せして「それがこうなったらもっとよくない?」なんていう反応を示してくれる人には話します。

だってそんな想像してくれるなら、できそうな気がしません?
イメージできるってことは、それができるってことだと思うんです。

簡単な話だと、たとえば僕がSIAを好きで、歌っているところを見てみたいって友だちに話すとするじゃないですか。
そしたら、後日その人から「今晩SIAがテレビに出るらしいよ」ってLINEが来るんです。

もうそれで叶っちゃうんですよね。
僕が気づいていなくてもアンテナが増えるので。
これは小さな夢の例ですけど、大きな夢の場合も同じだと思うんです。

―めちゃくちゃわかります。
私の場合は、もともとだれにも言わずにやり遂げたほうがかっこいいじゃん、なんて思っていたタイプで、最近口に出すようになったので、かなり納得です。

沖さん:あくまで信頼できる人であれば、という話ですけど、でも人生は短いし、ここにいるあいだはほかの景色を見られないじゃないですか。
でもだれかに話しておくことで、僕が出会えない人ともその人が出会ってくれるかもしれないですよね。

アジアを足がかりに、舞台は世界へ

沖昌之さん

―それでは最後に、今後の展望についてお伺いしてもいいですか?

沖さん:やっぱり日本を出て、世界中のねこを撮っていきたいですね。
それで現地のねこの写真展を開催して、それを見たその土地の人たちが「このねこ見たことある~」みたいな感じで盛り上がってくれたら最高です。

コミュニケーションのなかで僕の写真が関われたら、Instagramで海外の人から初めて「Awesome」ってコメントをいただいたときを再体験することになりそうですね。

―どの国から撮影しに行くか決めていますか?

沖さん:9月末から10月末まで、台湾の台中市で写真展(※2)をしていただいているんですよ。
以前も高雄市で開催していただいたので、今回は自分も行こうと思っているんです。

ちょうど台湾はそろそろ待機日数が軽減されるかもしれない、という話も出ているみたい(※3)なので、俄然行きたいですね。

※2 「沖昌之必死すぎるネコ太拼命的毛孩台灣展」
会期:2022年9月30日(金)~10月30日(日)
開場:木曜日~日曜日 13:30~18:30(最終入場 17:30)
会場:KAMOGAMO Gallery(台中市西屯區大有西街19號)
入場:$120
▶詳細は沖さんのTwitterをご確認ください。

※3 当インタビューは2022年9月16日に行いました。新型コロナウイルス感染症に関する情報は、随時最新のものをご確認ください。

―それはすごいタイミング。
ここでも引き寄せちゃいましたね。

沖さん:まぁ思ったときが一番正解に近いのかな、という気はしますよね。
一瞬思いついたけど、すぐに連絡せずにあたためちゃって、そのまま言うタイミングを逃しちゃうってこともあるじゃないですか。

―たしかに。
自分では思いつきだと思ったことも、実はいろんな脈絡を経て思い至ることが多いと思うので、そのときに行動するのが一番だと思います。

沖さん:僕の場合、仕事の内容が思いこみばっかりなんですよ。
「今日はねこがなにかすると思う」「いま撮るべきな気がする」「こっちにねこがいる気がする」っていう、野生の勘というか、直感でしかなくて、毎回「思う」の連続なんですよ。

撮影するときも、シャッターを切ってすぐに撮れるわけではなく、一瞬だけ間があるんですね。
ということは、感じたときに押せばちょうど合うんです。

ねこがなにかをした瞬間ではなく、先になにかを感じてシャッターを切らないと、ぞろ目の当たりは出ないんですよね。
まぁもちろん外れるときもあるんですけど、そういうのは「今じゃなかったんだな」って思います。

―いつでも撮れるものだったら、たぶん感動もしなくなっちゃいますもんね。
貴重なお話、ありがとうございました!

たまには無鉄砲になってみる

取材時のマグカップ

自分の次の行動を決めているのは、もちろん自分自身。でも、そのとき選択肢は無数にあるはずなのに、最初からいくつかに絞っているという方もいるのではないでしょうか。

それが意識的であるにせよ、無意識であるにせよ、自分の可能性を狭めるのは結局自分自身なのかもしれないと感じます。ということは、どこまでも広げることができるのも自分なのかもしれません。

なにか行動を起こすたびに眼前に広がる選択肢を、どこまでフィルターをかけずに全部きちんと見据え、その中から選ぶことができるのか、日々のちょっとした大胆な考え方が視野を広げていくように思います。

望む限りは、いつまでだって成長期。たまに無鉄砲な行動を起こして、自身が築いてしまったレールを外せれば、何歳になろうと何者にでもなれるでしょう。

とはいえ、周りの人を心配させてしまうのはおすすめできないので、沖さんのおっしゃるとおり、ダブルワークから始めてみるのが一番かもしれません。

 さて、SUNGROVEはマーケティングを主軸にしたwebメディアなので、インタビューの最後にご自身の広告を作る気持ちで自己紹介をしていただきました。

制限時間は20秒。近年注目されている音声広告にちなんだ時間です。当日の急な無茶ぶりにお付き合いしてくださった沖さん、ありがとうございました!


沖 昌之さん
猫写真家。1978年、兵庫県神戸市生まれ。
2009年、東京のアパレル企業に勤務するまでカメラに興味はなかったが、宣伝用人物・商品の撮影を担当するのち、2015年、37歳で初恋のねこ“ぶさにゃん先輩。”の導きによりに独立。
2017年刊行の代表作『必死すぎるネコ』は、日本テレビ系列『天才!志村どうぶつ園』や同系列『スッキリ』などで紹介されて話題になり、シリーズ3作で累計8万部突破。
2019年にはアパレルブランドZUCCa(ズッカ)とのコラボ商品を発売、また企画展「すごすぎる! ねこ展~ヒトとネコの出会いと共存の歴史~」にて写真を展示。
2022年、3D巨大猫“新宿東口の猫”で知られるクロス新宿ビルにて写真展「新宿の中心で必死すぎるネコ 写真展」を開催するなど、精力的に活動中。
日本テレビ系列『天才!志村どうぶつ園』やNHK『美の壺』、BS-TBS『ねこ自慢』に出演するなど、メディア出演も多い。
昼夜問わず、ねこらしい瞬間をひたすら撮りつづけている。

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YouTube(猫写真家 沖 昌之の必死さに欠けるネコ動画)
書籍一覧(沖さんのブログに遷移します)
2023年版カレンダー一覧(沖さんのブログに遷移します)

(記事中で紹介しきれなかった写真展情報:2022年10月時点)
チャリティー企画展「ハッピーニャロイン」(主催のnecoya books公式Twitterに遷移します)
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この記事を書いた人

浦田みなみ
元某ライフスタイルメディア編集長。2011年小説『空のつくりかた』刊行。モットーは「人に甘く、自分にも甘く」。自分を甘やかし続けた結果、コンプレックスだった声を克服し、調子に乗ってPodcastを始めました。BIG LOVE……

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