
デザイン経営とは?デザイン思想との違いや具体的な進め方を解説
デザイン経営というフレーズを聞いて、「何かお洒落な経営手法?」と感じる方も多いはずです。でも実際は、企業の意思決定や組織文化そのものを、より顧客に響く形に変えていく戦略です。
とくに中小企業や伝統産業では、「品質は良いのに売れない」「価格競争に巻き込まれている」という悩みを抱える声も多く、デザイン経営はその突破口になると注目されています。
本記事では、本記事では、デザイン経営とは何か、デザイン思想との違いは何かをわかりやすく解説しています。基本となるフレームワークや、デザイン経営の具体的な進め方、成功事例から見るポイントなど、初心者でも迷わず実践できるよう最小限のステップとポイントに絞って解説しているので、自社で取り入れるべきかの判断材料にしてください。
目次
デザイン経営とは

デザイン経営とは、デザインを経営の中心に据え、ユーザーの本当のニーズを掴んで、ブランド作りや新しい価値の創造につなげる経営スタイルです。
単なる見た目や装飾ではなく、企業や商品・サービス、さらには組織全体の戦略にデザインを浸透させることが目的です。これにより、他社と差別化されたブランドイメージの構築が可能となります。
また、デザインであれば本来の経営戦略よりも、施策立案→検証→改善をいち早く繰り返せるようになり、新しいイノベーションを生み出すことも容易でしょう。
デザイン経営とデザイン思想の違い
デザイン思考(デザインシンキング)とは、「ユーザーの目線で課題に寄り添い、プロトタイプを試して検証し、改善していく一連のプロセス」です。デザイン経営の元となる考え方となっています。
デザイン経営は、デザイン思考を企業の戦略や組織文化に組み込み、ブランド価値やイノベーションを生み出す経営スタイルと言えます。つまり、デザイン思考は「道具」、デザイン経営はそれを使って「企業全体を動かす仕組み」です。
経済産業省・特許庁が「デザイン経営」を推進

2018年5月に、経済産業省・特許庁が研究報告書に「『デザイン経営』宣言」を取りまとめ、企業がデザイン経営を行うことを推進しています。なぜ国が、デザイン経営を推進し始めたのでしょうか。その理由は、主に6つあるとされています。
- 産業競争力の強化
- ブランド価値の向上
- イノベーション創出の加速
- 顧客中心の経営促進
- 高度デザイン人材の育成
- 知的財産の活用強化
それぞれの理由について見ていきましょう。
産業競争力の強化
デザインを経営戦略のコアに据えることで、企業は自社製品の独自性を打ち出せます。国際市場では技術だけでなく、魅力あるデザインによる差別化が世界と戦うポイントです。
経産省・特許庁が設置した研究会は、デザインを「産業競争力強化の鍵」と位置付け、政策支援を進めています。
ブランド価値の向上
デザインで企業理念やストーリーを一貫して伝えることで、唯一無二のブランド体験を提供できます。消費者にとって「代替しがたい価値」を創出することが目的です。
デザイン経営宣言では、ブランド構築の効果を強調し、企業に対して戦略的デザイン投資を後押ししています。
イノベーション創出の加速
デザイン思考を活用し、潜在ニーズを探りながら仮説・試作・検証を繰り返します。それにより、新たな価値を迅速に事業化へつなげられるでしょう。
特許庁報告書では「イノベーションが産業競争力の向上に直結する」と明示され、欧米でも成果が実証されていると示されています。
顧客中心の経営促進
ユーザー体験を軸に据えることで、本質的な課題に基づいた商品・サービスの設計が可能になります。消費者視点からの改善が、顧客満足を高めます。
宣言には「企業文化としてのデザイン思考導入」が不可欠とされており、組織全体の顧客志向への転換を目指しています。
高度デザイン人材の育成
経営層にCDOなどのデザイン責任者を配置し、デザインを組織運営の中心に据える体制づくりが求められています。宣言では、教育機関や社内研修の強化を通じて、高度なデザイン人材の育成が政策の柱の一つとされています。
知的財産の活用強化
意匠権や商標権などを戦略的に活用し、模倣から製品を守り、ブランド価値を法的に裏付けするため、企業にとってはかなり重要と言えるでしょう。特許庁は中小企業向けに知財とデザインの連携を促すガイドブックや支援体制も整備しています。
基本となるデザイン思考のフレームワーク

デザイン思考のフレームワークは、導入する企業によって形が異なりますが、現状分析から課題解決に至るまでの大きな枠組みには共通するポイントが多く見受けられます。
イギリスのデザイン研究者であるNigel Cross(ナイジェル・クロス)氏が提唱する、デザイン思考のフレームワークが元になっていると言われています。
- ①背景の分析と問題の発見・枠組み設定
- ②アイデアと解決策の創出
- ③創造的思考と描写
- ④モデル化と試作
- ⑤テストと評価
このフレームワークは、各フェーズが互いに関係し合いながら進む「反復型」のサイクルです。これらを繰り返す構造こそが、Nigel Cross氏が説く「コアなデザイン思考」です。
それぞれのフェーズについて、もう解説していきます。
①背景の分析と問題の発見・枠組み設定
デザイン思考で最初に重要となるのは、本質的な課題を見つけ出すことです。表面的でない問題は、ユーザーの実体験や現場観察を通じて浮かび上がります。
とくに「共感」のフェーズでは、社員自身がユーザー視点を体験し、「違和感」や「不便さ」を洗い出すことで、曖昧な課題を明確化します。そして、それらを言葉や図に落とし込み、検証可能な問題として再定義していきます。
②アイデアと解決策の創出
結論から言えば、ここのフェーズでは「問題を掘る」だけではなく「解決策を具体的に生み出す」力が問われます。
科学的思考が原因分析を重視するのに対し、デザイン思考では「どうすれば解けるか」を起点にします。問題を構造化しながら、複数の実践的な解決策をアイデアとして並べ、広く試せる力が求められます。
③創造的思考と描写
課題を解決するアイデアが出そろったら、次はどれが現場で機能しそうかを判断する段階です。ここでは「仮説的推論」が重要となります。
これは、経験やデータをもとに「最もありそうな理由や仕組み」を仮定し、その仮説を検証候補として選ぶ思考法です。データ量と経験の幅によって、信頼できる仮説を立てる力が左右されます。
④モデル化と試作
アイデアや仮説を目に見える形にすることで、議論の土台が安定します。図面・スケッチ・プロトタイプを作る工程です。
可視化されたモデルをチームで共有することで、設計のズレや懸念が早期に浮かび上がり、改善ポイントが明確になります。この時点で図式化された設計思想は次の施策実行への架け橋となります。
⑤テストと評価
最後に、施策を実際に試し、効果を確かめることが重要です。離脱率やユーザー満足度など、指標を予め設定し、テスト設計を行います。
重要なのは「どの程度改善すれば成功か」「何人のユーザーを対象にするか」など基準を明確にすることです。これにより、感覚ではなく確かな根拠をもって次の展開への判断が可能になります。
デザイン経営の具体的な進め方

デザイン思考のフレームわーくがどんなものかわかったら、次は実践です。デザイン経営を行う際の、具体的な進め方は以下の通りとなります。
- Step1:経営層の共通理解と合意
- Step2:社内環境整備と推進組織の立上げ
- Step3:現状分析と企業文化の共有
- Step4:施策の構想とコンセプト設計
- Step5:小規模試作&評価のサイクル作成
- Step6:評価・共有・全社展開
全てのステップを一気に行うのではなく、1つ1つ確実に進めていきましょう。
Step1:経営層の共通理解と合意
デザイン経営は経営戦略の中核となるため、まず経営陣がその目的や効果を深く理解し、正式に合意を得る必要があります。期待する成果や投資対効果、プロジェクトの進め方などを明確にし、経営会議で合意形成を図りましょう。
経営層の合意が得られると、必要なリソースの割り当てや権限付与が可能になるため、現場が安心して動きやすくなります。経営層の強いコミットメントこそが、企業全体の意思決定や文化を変革する推進力になるのです。
Step2:社内環境整備と推進組織の立上げ
合意の後は、デザイン経営を実行する社内体制を整えることが肝心です。最高デジタル責任者(CDO)やプロジェクトマネージャーを任命し、デザイナー、人事、営業、ITなど異なる部門からメンバーを結集して推進チームを立上げてください。
また、自治体や支援機関、専門ファームとの外部連携もここで確立します。この仕組みにより、ツールやノウハウの提供を受けられるだけでなく、地域企業同士の横断的な連携が可能となるでしょう。特許庁の「デザイン経営コンパス」利用者からは、環境整備と外部協力を同時に進めることが導入成功のカギとの声も上がっています。
Step3:現状分析と企業文化の共有
デザイン経営を行うための環境が整ったら、いよいよ実践です。市場環境・顧客ニーズ・自社の強みや弱みを整理し、現状を可視化します。加えて企業文化や働き方の特性を共有する場を設け、組織としてのアイデンティティ(企業文化)を言語化しましょう。
見えてきたデザイン経営の”作用点”をもとに、どこに注力すべきかが明確になるはずです。この共通認識があることで、後の施策設計で視点がぶれず、効果も最大化できます。
Step4:施策の構想とコンセプト設計
どのユーザーにどんな価値を届けたいのかを具体的に設計しましょう。ターゲットの定義、提供価値の整理、Deliverables(製品・体験)の設計までを俯瞰して落とし込みながら、コンセプトを固めていきます。
同時にKPI(例:顧客満足、NPS、利用頻度)や必要資源(予算・人員・期間)、役割分担を明示してください。これにより、全体計画としても実行基盤としても統一的な設計が可能になります 。
Step5:小規模試作&評価のサイクル作成
プロトタイプやPOC(実証実験)の形で施策を小規模に試行し、ユーザーや現場からフィードバックを得ます。ここでは「試して検証し、改善する」というアジャイル型サイクルを繰り返すことが重要です。
このステップの目的は、早期に学びを得て大きな失敗を避けることです。小さな成功・失敗を組織で共有しながら、次の改善サイクルにつなげる文化を醸成していきます 。
Step6:評価・共有・全社展開
最後に、KPI達成度やユーザー満足度などを定量・定性で評価し、施策の成果をドキュメント化します。成功事例や改善ポイントを社内外に展開し、継続的な文化として根付かせます。
特許庁では、こうした「成果を見える化し、全社的に共有すること」を”好循環モデル”と呼び、中小企業の導入支援でも重要視しています。
デザイン経営の成功事例から見るポイント

近年、デザイン経営は、教育・福祉関連の非営利組織など幅広い場面で活用されています。ここでは、デザイン経営の成功事例を3つ紹介します。どういったことを行ったのか簡単に解説するので、ぜひ参考にしてください。
IBM
IBMは「Good design is good business」を経営理念の一つに据え、デザイン思考を組織横断で導入しています。
理解→探求→プロトタイプ→評価という基本フレームに加え、「目標の丘」「スポンサーユーザー」「プレイバック」といった独自ルールを設けることで、チーム全体に共通のゴール設定とユーザー視点を浸透させています。
この取り組みによって、製品やサービスの企画・実装のスピードと品質が大きく向上。目標を見失わず、常に実際のユーザーに価値を届け続ける仕組みが確立されています。
UberEATS
UberEATSでは、「エコシステム」という考え方のもと、ユーザー・配達パートナー・飲食店の体験を包括的にデザインしました。
まず現地での市場調査(immersion)を通じ、利用者や配達員、店舗との対話から得たインサイトを基にプロトタイプを構築。これにより、操作の”シンプルさ”や「Instant Delivery」商品の絞り込みなど、ニーズに合ったUXが実現されています。
アプリ内で注文から到着までのログをリアルタイムで可視化し、注文選択肢の最適化や時間精度の改善を施すことで、使いやすさと安心感を両立。利用者のストレスを徹底的に軽減したUX改善が高く評価されています。
▶参照:How We Design on the UberEATS Team|Medium
スタンフォード大学
スタンフォード大学の医療機関では、緊急救命室において患者とその家族の立場を体験する「シミュレーション」を活用し、共感に基づいたデザイン思考を組織に根付かせました。7ヶ月に渡るインタビューと模擬ワークショップの結果、「患者・家族が何を求めているか」が明確になり、医療提供プロセスそのものが見直されたのです。
この取り組みによって、単なる技術的改善ではなく、患者中心の思考とプロセス設計が浸透。現場スタッフの意識が変わり、患者体験の質が格段に向上したことが示されています
▶参照:ニュースセンター|Stanford Medicine
まとめ:基礎を抑えてデザイン経営を取り入れよう

デザイン経営を取り入れるには、「経営層の合意」「体制の整備」「顧客視点の設計」の3つの基礎を抑えることが大切です。トップが目的や期待成果を共有し、実行チームや外部連携の枠組みを整えることで、確かな出発点が生まれます。ここが明確であるほど、現場に落とし込んだ際の定着率は高まります。
次に、「小規模検証→改善」のサイクルを回す習慣を組織に根付かせましょう。大規模展開前にプロトタイプを試作し、ユーザーや現場の声を反映しながら改良を重ねることで、成功へのリスクを低く抑えつつ確かな成果につなげられます。そして、これらの成果や学びを社内共有し、全社的にシェアすることで組織文化としての「デザイン経営」が形成されていくのです。
デザイン経営の成功への鍵は「顧客への共感」「自社固有のルール化」「高速PDCA」の3つです。この3要素を軸に設計すれば、IBMやUberEATSのように、自社でも持続可能なデザイン経営の実装が期待できます。まずはこの基本から着実に進め、自社に合ったやり方を少しずつ育てていきましょう。
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