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オッカムの剃刀とは?ビジネスにおける活用例や使い方、AIとの関連性までわかりやすく解説!

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ビジネスを効率的に展開するうえで、客観的な現状分析や原因追及は欠かせません。その際、目の前にある状況から具体的な課題を見出すためには、「論理的な思考法」が武器になるでしょう。

「論理的に物事を考える力」は古くから人類に固有の問題解決能力と考えられており、哲学や論理学といった学問の考察対象とされてきました。なかでも中世哲学に由来する「オッカムの剃刀」は、現在でも学問やビジネスにおける基本的な思考法として通用しています。

この記事では、オッカムの剃刀の概要をわかりやすく紹介したうえで、ビジネスに応用できる場面や使い方について解説していきます。

オッカムの剃刀とは

オッカムの剃刀とは、論理的思考をシンプルに展開していくための指針であり、具体的には「ある事柄を説明する際、必要以上に多くのことを仮定してはいけない」という命題を指しています。

この方法論はもともと、中世哲学における膨大な議論を通じて発達したものであり、とりわけ14世紀にイギリス出身の哲学者・神学者であるオッカムのウィリアムが頻用した方法論として広まりました。

この原則は、「事柄を説明できる方法や理論が複数ある場合には、より単純な方を選ぶべき」というように、「無駄な要素の排除」を基本方針としていることから、「思考節約の原理」としても知られています。

複雑な説明や冗長な思考に含まれている余計な要素をカットしていくこの原則は、学問の土台を支える方法論として広く普及し、神学・哲学はもちろん、その後の天文学や医学など科学的思考の基礎とされました。

今日においても、学問的研究はもちろん、ビジネスのさまざまなシーンでも取り入れられている実践的な方法論です。その汎用性の高さから、それと知らずに「基本的な思考術」の1つとして活用している人も多いでしょう。

オッカムの剃刀に含まれる原則

オッカムの剃刀は、オッカムのウィリアムが議論を簡潔にするために用いた方法論全般を指しています。なかでもウィリアムの姿勢を端的に表す言葉として、広く知られているのが以下の3つの命題です。

Pluralitas non est ponenda sine neccesitate.
(不必要にいくつもの仮定を立ててはならない)
…ここで用いられる「仮定を立てる」という言葉は、「可能性を考慮する」と置きかえてみるとよいでしょう。何かの問題に対して「もっとも本質的な原因」が認められるのであれば、周辺的な可能性は一旦脇に置いておく、といった措置がこれに該当します。

Frustra fit per plura, quod potest fieri per pauciora.
(より少ない要素で可能なことに対し、それ以上の要素を加えるのは無駄である)

…この命題を換言すると、「より簡潔に説明できるのであれば、その方法を採用すべき」ということになります。わかりやすくいえば、「孫」という言葉で通じるのであれば、「子どもの子ども」という説明は不要というわけです。

Entia non sunt multiplicanda praeter necessitatem.
(存在を不必要に増やしてはならない)

…ここでの「存在」という言葉は、「説明に用いる要素」を意味します。物語でいえば「登場人物」がこれにあたるでしょう。たとえば「桃太郎」の物語においてもっとも核心にある出来事を説明する場合、「桃太郎が鬼を退治した」となり、おじいさんやおばあさん、動物たちなどは付随的な要素となるでしょう。つまりこの命題は、「説明すべき事柄に対して最小限の要素で考える」ことを意味します。

オッカムの剃刀の用例

上に挙げた命題はいずれも、「物事を的確に説明するうえではもっともシンプルな形を目指すべき」という指針を示しています。これらの命題が適用される具体的な文脈として、「物体が地面に落ちる原因」について説明するケースを考えてみましょう。

たとえばまず、「物体が地面に落ちるのは、神があらゆる存在に重力を働かせているからだ」と原因を推測したとします。しかしここで説明されるべきは「物体が地面に落ちる原因」ですから、本質的なポイントは「重力の働き」にあります。一方、「神の働きかけ」という要素は本質的な問題との関連性が明らかではありません。

そのため上の推論を必要最小限の形にすると、「物体が地面に落ちるのは、そこに重力が働いているからだ」となるでしょう。これにより、「あらゆる物体の運動は神の意志によるもの」という前提が取り除かれたことになります。

このような「思考の前提」は、思わぬ形で私たちの普段の考え方に「下図」を与えています。オッカムの剃刀は、思考にあたって不必要な前提や仮定を排除することにより、これまで隠れていた「認識のフィルター」を取り除き、本質的な原因へと迫っていくことを助けてくれるのです。

現代におけるオッカムの剃刀の重要性

オッカムの剃刀はもともと哲学や神学の議論を通じて培われた方法論であり、学問的な思考を支える土台として普及してきた側面があります。一方で現代のビジネスシーンにおいても、この原則がもたらす「思考の効率化」は重要な意味をもつでしょう。

ビジネスにおける行動指針として

「シンプルイズベスト」といった標語にも見られるように、問題の構造をより端的に捉えようという姿勢は、ビジネスにおいてもしばしば重要視されるものです。

アップル製品に見られるデザイン哲学や、米国海軍から広まったKISSの原則(Keep It Short and Simpe:簡潔に、単純にしなさい)など、「シンプルなものの見方」は効率化の方法論であるとともに、一種の「美学」としても捉えられています。簡素な生活を推奨するミニマリズムなども、こうした考え方の一類型かもしれません。

オッカムの剃刀は、これらの理念や行動原理を実践に移していく際に役立ちます。

たとえば「売り上げが伸びない」という課題に対し、原因として「営業のリソースが足りず、アポイントが取れない」という理由が挙げられたとしましょう。しかしこの際、売り上げに直接的に関わるのは「アポイントが取れない」という部分だけであり、「営業のリソース」というのは付随的な見解に過ぎないと考えられます。

ここで「営業のリソース」という点を本質と考えてしまうと、人材確保に予算を割いたり、あるいは根本的な対処が見つからず、長時間労働が常態化したりといった状況にもつながりかねません。

オッカムの剃刀により「営業リソース」というポイントをカットし、「アポイント」という本質に焦点を定めることで、顧客管理ツールの導入や対応ノウハウのマニュアル化など、より抜本的な対策へと思考を進めていけるはずです。

ビジネスフレームワークの土台として

オッカムの剃刀は、さまざまなビジネスフレームワークを実践する際にも重要な観点を提示してくれます。

たとえばPDCAサイクルを回していく際、Plan(計画)において必要のないプロセスがないか検証したり、Check(評価)において問題の本質的な原因を追及したりと、「フレームワークの内部で行われる考察」を支える思考術となるでしょう。

また、オッカムの剃刀は論理的思考のフレームワークとして知られる「MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:漏れなく、ダブりなく)」とも近い関係にあるといえます。とりわけ「ダブり=重複」の排除という点は、「問題を複雑化しない」というオッカムの剃刀の原則と共通するポイントです。

問題の原因を簡潔に捉え、その構造をシャープに把握することは、ビジネスフレームワークを的確に運用するうえで欠かせません。この点で、オッカムの剃刀は「フレームワークに沿った思考展開」を効率化するための土台となるはずです。

オッカムの剃刀と機械学習、AIとの関連

オッカムの剃刀が示すシンプル化の原則は、データ解析や機械学習、AIといった分野とも密接に関わっています。大量のデータから一定の傾向やパターンを読み取っていくうえでは、「より単純なモデル」をベースにプロセスを展開することが大原則となるでしょう。

プログラミングにおいても、「同様の動作をより簡潔な言語で表現する」というのは基本的な姿勢だといえます。シンプルであるほど後々の修正や調整も容易であり、発展の余地を残せるというのは、プログラミングだけではなく、アイデアを整理する場面に広く共通するポイントでしょう。

オッカムの剃刀を応用できる場面

オッカムの剃刀は学問やビジネスをはじめ、「思考を段階的に組み立てていく必要のある場面」で広く実践可能です。不要な要素を削ぎ落としていくことにより、目の前にある問題の本質的な構造を浮き彫りにできると考えられます。

以下では具体的に、ビジネスシーンにおいてオッカムの剃刀がとくに役立つ場面について解説していきます。

現状分析や効果測定における課題の特定

現に生じている問題について、原因を追及する際にオッカムの剃刀は有効に機能します。

たとえば「コンバージョンが思うように伸びない」という課題に対して、「制作陣の意思疎通が取れていないために、サイトの導線が整理できていない」という原因が挙げられたとします。しかし、ここでの本質的な原因は「未整理のサイト導線」であり、一方の「制作陣の意思疎通」という原因は問題との関連性が明確ではありません。

ここで、制作陣という要素を原因からカットし、「サイトの導線」に焦点を合わせることで、具体的な改善策の策定へとつながっていくでしょう。

このように、「目の前の事象に不要な要素を結びつけない」という姿勢をもつことは、無用な責任追及を避けるうえでも重要だと考えられます。

企画やプロジェクトのブラッシュアップ

企画やプロジェクトの立案など、アイデアを形にしていく場面においてもオッカムの剃刀は有効です。シンプル化の原則により、企画段階における「認識のズレ」が生じるリスクを減らせると考えられます。

たとえば環境性能に優れる新商品を開発するにあたり、ターゲットを選定する場面を考えてみましょう。ここで「20代はSNSを通じて環境意識を高めており、SDGsへの関心も高いので、この商品は受け入れられるはず」という見解が提示されたとします。

しかし実際のところ、仮に「環境意識の高さ」が「自社商品との親和性」につながるとしても、それが果たして「20代」に限定されるかどうかは検証する必要があるでしょう。

すなわちここでの本質的な要素は、「環境意識の高い人がこの商品を気に入る」という点であり、SNSや20代といった要素は副次的なポイントです。この点を確定要素とするには、市場調査などにもとづく客観的な根拠が必要だといえます。

このように、オッカムの剃刀はプロジェクトの前提となっている「不透明な部分」を浮き彫りにする際にも役立つはずです。

業務プロセスの改善

業務効率化の面でも、オッカムの剃刀が役立つケースは考えられます。「目的とする成果」に対して「実際の手段」が適切に整えられているか、不要な要素はないかと検証していくことで、業務プロセスは適正化されていくでしょう。

たとえば「現場を管理している従業員が、上長の承認を得るためにオフィスまで書類をもって出向く」というケースを考えてみます。ここで業務上必須の要素は「上長の承認」だけであり、「オフィスまで出向く」ことが付随する必要はありません。

このようにして客観的に「目的に対して必要な要素」を絞っていくことで、「必ずしもそうでなくていい要素」が浮き彫りになっていきます。上のケースでは、ファイル共有のシステムやプロジェクト管理ツール、連絡体制などを整備することで、目的を効率的に達成できる環境を築けると考えられるでしょう。

オッカムの剃刀の使い方と注意点

オッカムの剃刀は特定の枠組みをもったフレームワークではなく、「思考を組み立てていくうえでの着眼点」であるため、とくに決まった使い方があるわけではありません。日々の思考において「不要な要素を削ぎ落とす」という観点をもつことで、それが効率的な問題解決力の土台となっていくのです。

もちろん、ビジネスにおいて課題を特定したり、アイデアを整理したりするなど、ある程度固定的な流れのうちにオッカムの剃刀を取り入れることも可能です。以下ではその際の流れと注意点について解説していきます。

基本的な流れ

まずは特定の問題や課題に対して、思いつくままに原因やアイデアを挙げていきます。この時点では要素の重複などを気にせず、ブレインストーミングのような形式でアイデアを提示していくとよいでしょう。

そのうえで、提示された原因やアイデアなどの要素をグルーピングしていきます。内容の近いもの、重複しているものはこの段階でまとめてしまいましょう。

そのようにして出揃った要素について、不必要なポイントがないかをチェックします。「原因としてもっとも根本的な部分はどこか」に留意しながら、それ以外の部分が「本当に当の問題と関係しているのか」を入念にチェックしていくことが大切です。

オッカムの剃刀を実践する際の注意点

オッカムの剃刀をビジネスに取り入れる際には、まず「必要な要素」までカットしてしまわないよう注意しましょう。

とくにアイデアを練っていく段階においては、一見すると無関係の要素がプロジェクトの発展性につながっていく可能性も考えられます。「偶然の出会い」を意味する「セレンディピティ」という言葉にもあるように、そのときには取るに足らないと思われていたアイデアが大きな成功を導くケースもあるでしょう。

たとえば強力な接着剤を開発していたはずの3Mが、開発プロセスにおいて「剥がれやすい接着剤」という真逆の性質をもつ溶剤を作り出してしまい、それが結果としてポスト・イットの開発につながった、というエピソードもあります。過度にシンプル化を目指すのではなく、用いる場面に応じて「あそび」を残しておくことが大切です。

(参照:ポスト・イット® ブランド | ポスト・イット® ブランドについて

また、オッカムの剃刀を用いて削られた要素は、そのものが「間違い」であるとは限りません。極端な例として、「物体が落下するのは、神が重力を働かせているから」という一文から「神」という要素がカットされたとしても、それだけで「神がいない」という結論には結びつきません。

つまりカットされた要素でも、十分な論拠をもってその現実性や問題との関連性が示されれば、その後また考慮に入れるべき事柄になりうるのです。

まとめ

オッカムの剃刀は、中世の哲学や神学の議論において頻用されていた思考法であり、「必要最小限の要素で事柄を説明する」ための方法論です。推論や原因追及など、思考を論理的に組み立てていく場面で有効であり、学問のほかビジネスにおいても活用されています。

ビジネスにおいては施策効果の検証や原因の特定、さらには企画立案におけるアイデアのブラッシュアップなど、さまざまな場面で役立ってくれるでしょう。議論が本筋から逸れてしまいそうな状況をはじめ、オッカムの剃刀を実践することで「その問題にとって本質的な事柄」に焦点を合わせていけると考えられます。

実践する際は、あまりに多くの要素を排除してしまわないよう注意しましょう。「何が必要で何が不要か」は厳密に定義できず、またビジネスのアイデアは思考の飛躍によって展開していく面もあります。

オッカムの剃刀は、「思考の無駄を削ぎ落とす」ことに特化した方法論であり、端的にいえば「思考のダイエット」を可能にするための原則です。反対に、アイデアを膨らませるなどの「思考の拡張」が必要になる場面には適さないケースもあるでしょう。自身が何を目的に思考しているかに応じて、取り入れ方を工夫していくことが大切です。

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この記事を書いた人

鹿嶋 祥馬
大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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