
MaaS(マース)とは?日本での課題や国内外での事例を解説!
私たちの移動手段は、電車・バス・タクシー・自転車など、実にさまざまです。しかし、それぞれの交通機関で別々に調べて、別々にチケットを買うのはちょっと面倒と感じたことはありませんか。 そんな不便さを解消してくれるのが、近年注目されている「MaaS(マース)」という考え方です。
本記事では、MaaSとは何かをわかりやすく解説しています。MaaSと旅行予約サイトとの違いや、メリット、世界と日本の導入事例、そして今後の展望も紹介しています。ぜひ参考にしてください。
目次
MaaS(マース)とは

MaaS(マース)とは、「Mobility as a Service」の略で、日本語にすると「サービスとしての移動性」を意味します。日本では、国土交通省により以下のように定義付けされています。
MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです。
▶引用:日本版MaaSの推進|国土交通省
簡単に言えば、電車・バス・飛行機などの複数の交通手段を利用する際、1つのサービス上でルートの最適化・予約・決済を一括でできるようにする仕組みのことです。
MaaSと旅行予約サイトの違い
一見似ているように思われるMaaSと旅行予約サイトですが、その役割や仕組みには明確な違いがあります。以下の表に整理しました。
MaaS | 旅行予約サイト | |
---|---|---|
主な目的 | 日常の移動や都市間移動の最適化 | 観光や出張など非日常の移動手段確保 |
対象ユーザー | 通勤・通学・日帰りなど日常利用者 | 観光客やビジネス出張者 |
サービス内容 | 複数交通手段の一括検索・予約・決済・乗車 | 航空券・宿泊施設・レンタカー等の個別予約 |
料金体系 | サブスク型・距離課金型・パッケージ型もあり | 基本は都度支払い |
旅行予約サイトでも、手段の検索・予約・支払いは可能です。ただし、リアルタイムでのルート最適化には対応しておらず、利用できる移動手段も限定されがちです。
近年では、より利便性の高いサービスを提供するために、「MaaS×旅行予約サイト」の連携が進んでいます。たとえば、旅行予約は従来のサイトで完了させ、移動はMaaSアプリでサポートするといった形で、役割を分担するサービスも登場しています。
MaaSの始まりはフィンランド
世界初のMaaSアプリはフィンランドの「Whim(ウィム)」です。ヘルシンキ市に拠点を置くスタートアップの「MaaS Global社」が、同市の交通当局と実証実験を行ったあと、2016年にリリースしました。
自家用車メーカーが存在しないフィンランドでは、クルマを購入するたびに国外へとお金が流れてしまう課題を抱えており、MaaSの普及による交通網の利用促進は好都合だったのです。また、渋滞や交通事故、環境汚染など、自動車に起因する社会問題への対策という側面もあります。
MaaSがもたらすメリット

MaaSが普及することでもたらされるメリットは、主に4つあります。
- 移動手段の利便性が向上する
- 交通渋滞の解消や回避につながる
- 高齢者や移動困難者も移動しやすくなる
- データを活かした都市設計や観光施策の高度化
それぞれのメリットについて見ていきましょう。
移動手段の利便性が向上する
MaaSが普及すれば、電車やバスはもちろん、タクシー、飛行機などを1つのアプリ・サイトで利用可能です。利用時にそれぞれ支払う手間がなくなりますし、遅延や運休などの場合でもリアルタイムで最適なルートを提案してくれます。
ユーザーのライフスタイルに合わせて、移動に柔軟性を持たせられる点がMaaSのメリットと言えるでしょう。MaaSの普及が進めば、複数の交通手段をサブスクリプションで利用できる未来もあります。モビリティの種類に縛られない移動が実現し、多くの方が交通費の削減を体感できるはずです。
交通渋滞の解消や回避につながる
MaaSの導入により、個々の移動ニーズをリアルタイムで把握・誘導できるようになると、交通の集中を避ける仕組みが構築されます。たとえば、混雑する時間帯やエリアを回避するルートが自動提案されることで、特定の道路や公共交通機関への過度な集中を防ぐことが可能です。
マイカー依存を減らし、公共交通やシェアリングサービスを活用した“分散型の移動”が促進されれば、都市部の慢性的な渋滞の緩和にもつながります。結果として、移動時間の短縮や燃料消費の削減が期待でき、CO₂排出量の抑制にも貢献できるでしょう。
高齢者や移動困難者も移動しやすくなる
免許を返納した高齢者や、身体的な理由で移動が困難な人向けのサービスとしてもMaaSは活躍します。タクシーの手配や、車いすでのバス利用が容易になるからです。
実際に、NTTコミュニケーションズ株式会社の「AI運行バス」では、AIがリアルタイムでルート確定や車両の手配を行っています。これにより、乗降場所を自由に指定できるようになり、バス停まで歩く負担が軽減されるほか、混雑を避けた効率的な運行も実現可能です。移動に制約を感じていた人でも、より自分らしい行動範囲を取り戻せる社会づくりが進んでいます。
データを活かした都市設計や観光施策の高度化
MaaSの導入によって、利用者の移動履歴や交通手段の選択傾向といったデータが蓄積されるようになります。これにより、どのエリアで交通需要が高まっているか、観光客がどのルートで移動しているかなどを、可視化・分析できます。都市計画や交通インフラの整備において、勘や経験に頼らず、実際の行動データをもとにした合理的な判断が可能となるでしょう。
特定の時間帯や観光シーズンに混雑するバスルートの改善や、乗降需要の多い場所への臨時便導入といった施策が検討しやすくなります。さらに、移動と連動した地域の購買データなども組み合わせることで、観光施策や商業施設の誘致にもつなげることができます。データを活用した「人が集まりやすい街づくり」が実現するのも、MaaSの大きな強みの1つです。
MaaSの5段階の統合レベル

MaaSは普及している度合いや機能に応じて5段階に分けられます。最初の状態は「統合なし」のレベル0です。続く形でレベル1〜4へとステップアップします。
内容 | 具体例 | |
---|---|---|
レベル0 | 統合なし(移動手段ごとに独立) | 紙の時刻表/個別購入の切符など |
レベル1 | 情報の統合(ルート検索・時刻表の一元化) | Google Maps、NAVITIME など |
レベル2 | 予約・決済の統合 | モバイルアプリでのチケット購入・QR決済 |
レベル3 | サービス提供の統合(パス・サブスク型) | Whim(フィンランド) |
レベル4 | 政策との統合(交通戦略・都市計画と連携) | 完全実現は現状なし |
日本と発祥の地フィンランドの状況をもう少し解説していきます。
日本の統合レベルは1
日本では、Google MapsやNAVITIMEなどの経路検索アプリが普及し、交通機関の時刻表や運行情報を一元的に確認できる環境が整っています。このように、情報統合のレベル1には到達している状況です。企業によっては、アプリ内で予約や支払いまで完結するサービスも提供しており、部分的にレベル2に該当する事例も見られます。
一方で、国全体として異なる交通手段の予約・決済は統合されておらず、サービス間の連携も限定的です。交通事業者や自治体、民間企業がそれぞれ独自にサービスを展開しているため、ユーザー視点での利便性は十分とは言えません。こうした分断が、今後の普及に向けた課題となっています。
発祥の地フィンランドでもレベル3
世界初のMaaSアプリ「Whim(ウィム)」を開発したフィンランド・ヘルシンキ市では、検索・予約・決済・利用までを一括で提供するサービスが整備され、レベル3に到達しています。定額制(サブスクリプション型)で公共交通・レンタカー・シェアサイクルを自由に利用でき、都市交通の利便性を大きく向上させています。
ただし、こうした取り組みも都市単位にとどまっており、国全体の政策と結びついたMaaSには至っていません。それでも、交通当局と事業者の連携が強固で、世界で最もレベル4に近い取り組みとされ、他国のモデルケースとして注目を集めています。
日本のMaaS普及における課題

MaaSの普及率が低い日本では、以下のような課題があります。
- 目的ごとのサービスが分断されている
- 法律や制度が未整備
- 都市と地方で差がある
- 事業者の連携が困難
- 日本での認知度が低い
日本のMaaS普及における課題について、もう少し解説していきます。
目的ごとのサービスが分断されている
日本では、鉄道・バス・タクシー・シェアサイクル・観光交通などが、それぞれ異なる事業者によって運営されています。これらのサービス間に連携がほとんどなく、統一的に管理・利用できるプラットフォームが不足しています。
MaaSでは「移動手段の一体化」が重要ですが、日本では今も目的別にサービスが切り離されたままです。乗り換え案内と決済アプリが分かれている例も多く、ユーザー体験を阻害する一因になっています。
法律や制度が未整備
MaaSを構成するには、複数の交通事業者や民間サービスをまたいだ契約やデータ共有が必要です。日本ではこれらに対応する明確なルールが存在せず、実証実験止まりのプロジェクトも少なくありません。
たとえば、定額制パスや混合運賃の導入には運輸局の承認が必要となり、柔軟な価格設計が難しい状況です。MaaSの社会実装を進めるには、既存制度の見直しが避けられないでしょう。
都市と地方で差がある
都市部では公共交通が充実しており、既存インフラを活用したMaaS導入が進めやすい一方、地方ではバス路線の廃止や鉄道の縮小が進み、MaaSの前提となる交通網が不足しています。
導入したくても肝心の交通手段がない、または高齢化・過疎化により利用者が限られてしまうといった課題があります。地方のMaaS化には、交通政策との一体的な支援が必要です。
事業者の連携が困難
日本の交通業界は、地域ごとに中小規模の事業者が多数存在するため、利害調整や協業スキームの構築が難航しがちです。国際的な大手プラットフォーマーによる一括導入モデルが使いにくい環境にあります。
とくに運賃収益やデータの取り扱いに関しては慎重な姿勢を示す事業者が多く、連携の障壁になっています。自治体が橋渡し役となるなど、公的な調整機能が求められています。
日本での認知度が低い
MaaSという概念自体が一般に広く知られておらず、活用できるアプリやサービスがあっても利用されていないケースが多く見られます。とくに中高年層では「使い方が分からない」という声も多く聞かれます。
実証段階で止まっているMaaSも多く、日常生活のなかで触れる機会が少ないことが、浸透の妨げになっています。生活に密着した形での訴求や、自治体による広報が不可欠です。
日本のMaaS事例
ムビサクが公表した地方創生×自治体DXツールカオスマップを見てわかるように、自治来の様々な業務に関してもMaaSの普及が進んでいます。少しずつですが、国もMaaS化に向けて動いている証拠となるでしょう。
ここでは、日本のMaaS事例を4つ紹介します。とくに首都圏に住んでいる人は、MaaSと知らずに使っているものもあるかもしれません。
Emot|小田急電鉄
引用:Emot公式
「Emot(エモット)」は、小田急電鉄株式会社が手掛ける観光MaaSアプリです。日常から非日常まで、ユーザーのさまざまな移動シーンにフォーカスし、オンデマンドバスや複合ルート検索を通して、利便性の高い新たなライフスタイルを提案してくれます。
特徴的なのがデジタルチケット機能です。箱根や熱海、鎌倉といった人気観光地のフリーパスをはじめ、ロマンスカーの特急券、サンリオピューロランドのデイパスポートをアプリ上で購入・利用できます。また、一部のデジタルチケットはユーザー同士で譲渡することが可能です。対個人にとどまらず、対コミュニティの側面も兼ね備えたMaaSアプリと言えます。
my! 東京MaaS|東京メトロ
「my! 東京MaaS」は、東京メトロが手がける大都市型MaaSです。鉄道はもちろん、シェアサイクルやコミュニティバス、タクシーなど、さまざまな交通手段と連携し、今までになかった移動価値の創出を目指しています。
具体的には、「パーソナライズド」「リアルタイム」「更なるネットワークの連続性の追求」の3つをキーワードにかかげ、雨に濡れないルートを検索したり、スキマ時間にリモートワーク可能な場所を提案したり、移動関連のアクティビティを快適にする機能が搭載されています。
&MOVE|三井不動産×ShareTomorrow
引用:不動産MaaSの新サービス「&MOVE」公式ニュースリリース
「&MOVE」とは、三井不動産株式会社と株式会社ShareTomorrowが手掛ける不動産MaaSです。フィンランド発祥の「Whim」アプリを活用し、各施設の利用者の用途にあった交通手段・料金プランを提供する仕組みです。ららぽーと豊洲のシェアード・シャトル(オンデマンド型相乗りサービス)をはじめ、三井ガーデンホテルズのシェアサイクル、パークアクシスの入居者向けモビリティなど、さまざまな実証サービスが進行しています。
2022年3月以降は、湾岸エリアを中心に相乗りサービスを展開する「nearMe.Town(ニアミータウン)」とも連携しているほど、MaaSに力を入れています。
MONET Technologies|ソフトバンク×トヨタ
「MONET Technologies(モネットテクノロジーズ)」は、ソフトバンク株式会社とトヨタ自動車株式会社の共同出資により誕生した合弁会社です。オンデマンドモビリティをはじめ、データ解析やAutono-MaaS(自動運転車×MaaS)を事業内容に組み込んでいます。
予約状況に応じて最適化されたルートを運行する「AIデマンドバス」、遠隔アバターガイドを活用したメタバース体験など、さまざまなシーンで導入されており、その範囲は行政・小売りにまで拡大中です。また、看護師を乗せた専用車両を派遣する医療MaaSも展開しています。
地方の事例
地方に目を向けると、MaaSを積極的に導入しているエリアは多数存在します。なかでも要注目なのが「茨城県つくば市」と「群馬県前橋市」です。
茨城県つくば市 | 顔認証を活用した乗降者実験、車椅子利用者による乗降依頼を実施 |
---|---|
群馬県前橋市 | ワンマイルタクシーの予約、商業施設との連携クーポンなど |
つくば市では、つくばモビリティロボット実証実験協議会などが中心となり、AIやICTを活用した次世代交通の実証が進められています。顔認証による乗降管理は、高齢者や障がい者にもやさしい設計を目指した取り組みです。
前橋市では、住民の“ラストワンマイル”を支援する交通モデルとして、スマホで呼べる「ワンマイルタクシー」や、商業施設と連動した電子クーポン配布などの施策を展開。移動だけでなく、地域の買い物や外出支援にもつなげる工夫が見られます。
民間企業や大学とともに協議会を設立し、官民一体となってMaaSの普及に取り組んでいる点も、地方型MaaSの先進例と言えるでしょう。
世界のMaaS事例

フィンランドの「Whim」を筆頭に、海外でMaaSの普及が進んでいる地域は多数存在します。ここでは、世界のMaaS事例を4つ紹介します。どれもレベル2~3相当のサービスとなります。
Whim(フィンランド)
引用:https://whimapp.com/(※2025年6月時点でアクセス不可)
「Whim(ウィム)」はフィンランドのMaaS Global社が提供するMaaSの先駆けとなるアプリです。バスやタクシー、シェアサイクルやカーシェアなど、さまざまなモビリティを一つのアプリ上で利用できます。都度払い・月額サブスク(2プラン)での支払いが可能で、上位のサブスクプランだと公共交通機関が乗り放題となります。
ただし、MaaS Global社が2024年3月に破産申請を行っています。今後どうなるのかは、続報がないため不明です。
Jelbi(リトアニア)
「Jelbi(イェルビ)」は、リトアニアのTrafi社が提供するMaaSアプリです。10種類以上のモビリティが統合されており、最適化されたルートプランはもちろん、地下鉄チケットの決済、配車サービスの予約までアプリ上で完了します。
2020年8月には、住友商事株式会社と業務提携を行っており、MaaSプラットフォームの展開をはじめ、スマートシティの実現など、新たな交通社会への活用が進められています。
SBB Mobile(スイス)
引用:SBB CFF FFS
「SBB Mobile」は、スイス連邦鉄道(SBB)が提供するMaaSアプリです。ルート検索をはじめ、時刻表のチェックや切符購入まで対応しています。また鉄道のみならず、シェアサイクルやカーシェア、スキー場のリフト券などの予約・決済も可能です。
特徴的な機能の一つに「Easy Ride」があげられます。切符を購入しなくても、ユーザーの移動ルートに基づいた交通手段を自動判別し、「最低価格」で事後発券するといったサービス内容です。
Zipster(シンガポール)
「Zipster(ジップスター)」は、シンガポールのモビリティX社が提供するMaaSアプリです。2018年12月からは、豊田通商株式会社が豊田通商アジアパシフィックを通す形で出資しており、サービス開発・海外展開をサポートしています。2019年10月には、小田急電鉄株式会社の「MaaS Japan」とデータ基盤を接続するなど、日本とも関係の深いMaaSです。
また、「Zipster」は公共交通機関をはじめ、「Grab(グラブ)」「GOJEK(ゴジェック)」などの配車サービスの利用も可能となります。
日本でもMaaSは今後普及へ|生活とマーケティングを変える可能性も

日本ではこれまで、交通手段の分断や制度の壁などにより、MaaSの普及がなかなか進みませんでした。しかし最近では、都市部を中心にMaaSの実証実験や導入事例が増えており、少しずつ前進している状況です。高齢化社会や観光需要の変化など、社会全体の流れをふまえても、MaaSは今後さらに必要とされていくはずです。
また、MaaSの広がりは、単なる「交通の効率化」にとどまりません。移動データや位置情報を活用すれば、リアルタイム広告やGPS連携での限定クーポン配信、地域施設との連動キャンペーンなど、マーケティングの新しいかたちも見えてきます。移動そのものが“価値のある体験”としてデザインされる未来が、少しずつ近づいているでしょう。
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