Webサイトは「広告」?あはき法の広告規制について解説!
「あん摩マッサージ指圧師」「はり師」「きゅう師」の3職をあわせて「あはき師」と呼びます。あはき師として営業するためには、いずれも国家資格を取得しなければいけません。これらの活動について定めた法律が「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」で、こちらも略して「あはき法」と呼ばれます。
医者が行う医療行為に対してあはき師が行う施術は「医療類似行為」と呼ばれ、法律上は「治療」に分類されません。しかし、あはき施術も身体の不調に対する施術であることから、まるで「治療」であるかのように宣伝を行うケースが増えているようです。また、あはき施術に当てはまらない「非医療類似行為」も増加しています。医療類似行為と非医療類似行為は混同されがちですが、前者は国から認定された国家資格であるのに対し、後者は民間の認定機関が独自に資格を発行しているという違いがあります。非医療類似行為の営業に資格や国の認定はいらないため、サービスの質がばらつきやすく、中には施術を受けた人が健康被害を訴える場合もあるようです。
こういった背景にはインターネットの発達も関係しています。誰でも自由に多くの人に向けた情報発信ができるようになった結果、低品質なサービスでも多くの人に認知されるようになってしまったのです。あはき師が広告宣伝を行う際には、あはき法で定められた内容に従う必要があります。しかしこの法律が制定されたのは昭和22年。当時はインターネットが存在しなかったため、当然Webサイト等の広告宣伝を想定した条文にはなっていません。
このように「時代遅れ」な状況に対応するために、厚生労働省は2018年から「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関する検討会」を開催し、あはき師や柔道整復師の広告ガイドラインを作ろうとしています。
現行のあはき法がどのように広告を規制しているか、またガイドラインがどのような方向で審議されているかをまとめ、あん摩マッサージ指圧師や鍼灸師のWebサイト制作において知っておきたいポイントを解説します。
目次
あはき法の概要
あはき法では、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の資格や職業倫理的な活動面だけではなく、広告についても言及されています。あはき師の広告については、第7条に以下のように記載されています。
第七条 あん摩業、マツサージ業、指圧業、はり業若しくはきゆう業又はこれらの施術所に関しては、何人も、いかなる方法によるを問わず、左に掲げる事項以外の事項について、広告をしてはならない。 一 施術者である旨並びに施術者の氏名及び住所 二 第一条に規定する業務の種類 三 施術所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項 四 施術日又は施術時間 五 その他厚生労働大臣が指定する事項 ② 前項第一号乃至第三号に掲げる事項について広告をする場合にも、その内容は、施術者の技能、施術方法又は経歴に関する事項にわたつてはならない。 引用元:
あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律
上記の内容以外は広告として発信してはいけないため、各施術の適応症(どのような症状に効果が期待できるか)や施術の料金を記載することができません。また②に記述されているように、施術者がどんな学校で学び、どんな実績を得たかといった経歴や、施術の方法について表示することも禁じられています。この法律に違反した場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
しかしこれでは記載できる内容があまりに少なすぎ、広告としての価値が低くなってしまうと思う人も多いのではないでしょうか。この内容に沿って宣伝を行っても、ユーザーに対して有益な情報提供にはならないといった意見も少なくありません。ただしこの規制は、あはき施術は不当な広告によって誘引されたユーザーが不適当な施術を受けた場合の被害が、他の分野に比べて著しいこと、また専門性が高い施術であるため、ユーザーが広告内容から実際の施術の質を計り知ることが難しいことを念頭において作られたものでもあります。
現在はTVや新聞といった従来のメディアを使わなくても、誰でもWebサイトを制作し、インターネット上で情報発信ができる時代です。それにより「広告」の線引きがあいまいになり、「Webサイトは広告か否か」という新たな問題が生まれるようになります。
そこで、現行のあはき法はインターネット広告を想定していない内容であり対応しきれないため、時代に適した法解釈を行い、「ガイドライン」を作って問題に対処しようということになりました。
あはき法の広告ガイドラインについて
あはき法の広告ガイドラインについては、厚生労働省が主体となって検討会が開かれています。検討会は2018年から2019年までに全8回が開催されました。この議論によっておおよその方針は定められましたが、ガイドラインの最終決定は行われていません。
あはき法の広告ガイドラインは、先に運用が開始された「医療広告ガイドライン」を参考に検討が進められています。2019年11月に行われた最新の検討会では、次のような方向性が示されました。これまで「野放し」といってもよい状況だった非医業類似行為の広告についても、一定のボーダーラインを示す内容です。
広告の定義 | 次の3つの要件を満たす場合、広告とみなされる。 1.利用者を誘引する意図があること(誘引性) 2.あん摩業、マッサージ業、指圧業、はり業、きゅう業、柔道整復業を行う者の氏名または施術所の名称が特定可能であること(特定性) 3.一般人が認識できる状態にあること(認知性) |
基本的な考え方 | ・医療広告ガイドラインを参考にしつつ、利用者が適切な施術を受けられなくなるような広告を規制対象とする ・これまでの基本的な考えは保ちつつ、利用者が適切に施術所を選べるような情報提供を確保する ・施術所の名称は医療機関と混同しないようなものにする ・相談や指導の窓口を定め、広告の適正化を推進する ・Webサイト等インターネットを通じた情報について、適切なあり方を定め、自主的な取り組みを促す(原則として規制対象とはみなさない) ・非医業類似行為の広告の適切なあり方について定める |
Webサイトの取り扱い | ・原則として広告の規制対象とせず、関係団体の自主的な取り組みを促す。 ・ただし、広告の定義に示す「誘引性」「特定性」「認知性」を満たす場合には、広告として取り扱う。 例)たとえば次のようなものが該当する ・「鍼治療」と検索した際、スポンサーとして表示されるWebサイト ・リスティング広告、SNS広告などのリンク先として設定されたWebサイト ・バナーに表示される内容 ・検索結果に表示される内容 など |
Webサイトに掲載すべきでない事項(案) | 1.内容が虚偽、または客観的時事であると証明できないもの 2.他との比較により自身の優良性を示そうとするもの 3,内容が誇大、また施術所にとって都合が良い情報を強調するもの 4,早急な施術を過度にあおる表現、また費用を過度に強調するもの 5.科学的根拠が乏しい情報にもとづいて、利用者の不安をあおる、または施術所へ不当に誘導するもの 6.公序良俗に反するもの 7.あはき法、柔整師法以外の広告関連法令で禁止されるもの |
Webサイトに掲載してもよい事項(案) | 以下の条件をすべて満たした場合、以下の内容を掲載してもよいとする。 1.表示される情報の内容について、利用者が問い合わせしやすいよう問い合わせ先を明示すること 2.自費施術に通常必要とされる施術の内容・費用・支払い方法 3.自費施術の主なリスク・副作用について説明する |
あはき師がWebサイトを制作する際に気をつけたいポイント
現行のあはき法では、Webサイトは広告として認められていません。しかし、多くのWebサイトの役割はユーザーをサービスへと「誘引」することだと考えられます。そのため、サービスの提供者を「特定」でき、多くの人間に「認知」されるものである可能性が高く、ガイドラインにおいて広告とみなされる3要件を満たしているといえるでしょう。また検索結果に表示される内容も広告とみなすと例示されていることから、実質的にほとんどすべてのWebサイトが広告に該当することになるかもしれません。ガイドラインの方向性からして、あはき法が改正される際には、Webサイトも広告規制の対象となる可能性があるということです。
現在は広告とみなされていないからといって、自由になんでも書いて良いわけではありません。「医療広告ガイドライン」や「景品表示法」など、広告表現に関する法律は他にも存在します。Webサイトを制作する際にはこれらの規定にも沿った内容を記載することが必要です。
特にあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師は人の健康に大きな影響を与える業種です。仕事である以上は利益が出なければ続けられませんが、自身の利益を追求するあまり、利用者にとって有害な広告宣伝を行ってしまわないよう注意しましょう。
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