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注目を浴びる「トークンエコノミー」とは?事例から分かる作り方のヒント

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インターネットの登場や、SNSの普及をはじめ、IT技術の革新はそのたび社会に大きな変化を巻き起こしてきました。今、これらに比肩しうる技術革新として、「ブロックチェーン」の発展に大きな期待が寄せられています。

ブロックチェーンは「仮想通貨」に用いられる技術ですが、今後はこの技術の普及とともに、「独自通貨を軸とした経済圏」がさまざまな領域で発展していくと考えられています。この新たな経済圏は「トークンエコノミー」と呼ばれ、システムの内部で画期的かつ多様なビジネスモデルが展開されていくと期待されているのです。

この記事では、トークンエコノミーの概要や事例をふまえ、ビジネスモデルを構築する際のポイントを解説していきます。

トークンエコノミーとは

トークンエコノミー(token economy)は、「代替通貨などのトークンを通じて展開する経済圏」を指す言葉です。換言すれば、「特定のコミュニティにおいてのみ価値が通用する代替通貨を軸に、参加者の活発な経済取引を促すモデル」ですが、その本質を理解するにはまず「トークン」の内実を把握しておく必要があります。

トークン(token)は日本語で「しるし」「記念品」などと訳され、その多義性から実に幅広い場面で用いられています。近年のビジネスシーンで用いられる際には、共通して「相手から望ましい行動を引き出すための褒美」といったニュアンスを含む言葉です。

わかりやすい例でいえば、「子どもが課題をクリアした際に与えられるシール」なども一種のトークンにあたります。つまり、その「ご褒美」があることによって、誰かの行動が特定の方向に導かれる、というのがトークンの本質的な意義だといえるでしょう。

生活に馴染み深いトークンの例としては、買い物の際に付与される「ポイント」が挙げられます。これは顧客から「店舗への来店や商品の購入」という行動を引き出すための施策であり、望ましい行動に対する「報酬」や「お礼」としてのポイントが、ここではトークンの役割を担っているのです。

さらに、上のようなポイント制度は、「ポイント(=トークン)を実際の決済にも利用できる」という点で、一種のトークンエコノミーであるともいえるでしょう。このケースにおいて、ポイントは「その店舗でしか価値が通用しない代替通貨」として運用されており、これにより店舗と顧客との間で「閉じた経済圏」が成り立っているのです。

つまり、「トークンによって利用者の行動を引き出すこと」に加え、「そのトークンがシステムの内部における取引に使えること」が、トークンエコノミーの成立要件だといえるでしょう。

このように、トークンには「相手の行動を引き出す」という側面に加え、「閉じた経済圏で交換価値を持つ独自通貨」としての側面が付随します。こうしたトークンの二面性を活かし、消費者を巻き込みながら、システム内部での取引を活性化させていく独自の経済圏をトークンエコノミーと呼ぶのです。

トークンエコノミーの特徴

トークンを通じて促される消費者の行動は、上述のような「直接的な購買行動」に限られるわけではありません。トークンエコノミーにおいては、「トークンを通じて参加者からどのような行動を引き出すか」によって、実にさまざまなビジネスモデルが展開されうるのです。

たとえばシンプルなモデルとして、「お祭りで屋台を設営する」という場面を考えてみます。ここで、「屋台設営への協力」という行動を地域住民から引き出すためには、協力してくれた住民へのトークンとして「お祭りで使える商品券」を発行する方法などが考えられるでしょう。これにより、屋台設営をスムーズに行うことはもちろん、地域住民に「コミュニティ運営に積極的に関わる意識」を抱いてもらうなど、多面的な効果が期待できます。

トークンエコノミーはこのように、「システムの利用者が、システム全体にとって恩恵のある行動をする」ことによって成り立ちます。システムの全体像を設計する際に、「どのようなトークンによって、どのような行動を引き出すか」を工夫することで、多種多様な経済圏を展開しうるのです。

これまでの経済モデルにおいては、消費者の行動は「生産者から提供されるモノやサービスを選び、購入する」ことに限定されるケースがほとんどでした。これに対し、トークンエコノミーがもたらす革新的な変化として、「消費者自身が生産過程に積極的に関与するようになる」ことが期待されています。

ブロックチェーンが広げるトークンエコノミーの可能性

先述のポイント制度をはじめ、トークンエコノミーに該当するビジネスモデルは、これまでにもさまざまな形で展開されてきました。しかし現在では、トークンエコノミーのあり方を一変させる技術として、仮想通貨にも用いられる「ブロックチェーン」の技術が期待されています。

ブロックチェーンは「ユーザーが共同でデータを管理できる仕組み」であり、かつ「データの改ざんが困難」な特性を持ちます。特定の管理者に依存しないオープンなシステムでありながら、通貨に求められる信頼性を担保できることから、Web上の資産取引などでも活用されはじめている技術です。

ブロックチェーンの「共同管理」という性質は、「ブロックチェーンの圏内にユーザーを巻き込む」うえで大きな役割を担います。この「参加者を巻き込む」性質は、トークンエコノミーを成り立たせるうえで重要なポイントになるでしょう。

たとえば、ブロックチェーン上で展開されるトークンエコノミーの典型例として、ビットコインをはじめとする仮想通貨のデータ管理における報酬モデルを挙げることができます。つまり、仮想通貨の取引データ管理に協力するユーザーに対し、トークンとして仮想通貨が支払われる仕組みが、ブロックチェーン上でのトークンエコノミーのモデルケースです。

このように、仮想通貨の管理・運用における互酬的な関係を皮切りとして、近年では「参加者がブロックチェーン上のシステム運営に関わりつつ、システム内の一消費者としても行動する」というモデルが急速に発展しています。現在では、イーサリアムのブロックチェーンを中心として、仮想通貨の管理をベースにしたさまざまなプロジェクトが展開されており、その内部で独自トークンを用いた多様な取引が行われています。

総じて、トークンエコノミーを形成するうえでは、「代替通貨=独自トークン」の発行・管理が必要であり、これを実現する技術としてブロックチェーンが大きな役割を担うのです。ここから、現在では「トークンエコノミー」という言葉でもっぱら「独自の仮想通貨を軸に展開される経済圏」を指すケースも多く見られます。

なお、先述の「ブロックチェーン」を中心に展開される新たな時代のインターネット「Web3.0(ウェブスリー)」については、こちらの記事で詳しく解説しております。ぜひあわせてご参照ください。

トークンエコノミーの事例

トークンエコノミーは「参加者をどう巻き込むか」「誰にどのようなメリットを提示するか」といった点を工夫することで、実にさまざまなビジネスモデルを構築することができます。国内においても、画期的なモデル設計により、独自の経済圏を発展させている事例は少なくありません。

ただし国内においては、法規制の関係上、独自トークンに限定的な機能しか付与できないケースもあります。独自トークンが「他の通貨と相互に交換できる」など、法に定められる仮想通貨の条件に当てはまる場合、トークンの発行業者は「仮想通貨交換業者」として認可を受けなくてはいけません。

こうした面から、国内では現状のところ、独自トークンに他の通貨との交換価値を持たせるケースは珍しく、独自トークンを発行する場合にも「特定のコミュニティ内で特典と交換できる」といった形に用途を限定する例が多く見られます。

ソーシャルメディア「ALIS」

株式会社ALIS(アリス)の運営する「ALIS」は、ブロックチェーン技術によって運用される日本発のソーシャルメディアであり、ブログ機能をメインに展開しているプラットフォームです。

大きな特徴としては、ブログ記事の執筆者や読者に対して独自通貨「ALISトークン」を発行している点が挙げられます。多くの「いいね」を集めた執筆者にトークンが配布されるほか、「いいね」をつけた読者にもトークンが発行されるため、情報の受け手側からも積極的なコミットが期待できるのです。

評価の混乱を避けるための工夫もなされており、記事リリースの初期段階で読者が「いいね」をつけたコンテンツの評価が高まるほど、当の読者に対して付与されるトークンが多くなる設計になっています。

また、読者は執筆者に対し、「投げ銭」としてトークンを贈ることも可能です。さらに、執筆者が独自に講座などを立ち上げ、支払われるトークンの対価として情報を提供するモデルも登場しており、システムの内部で参加者たちが独自にコミュニティを発展させている事例となっています。

なお、ALISトークンはすでに海外取引所に上場している仮想通貨なので、法定通貨との交換も可能です。今後、ALISのブログプラットフォームを利用するユーザーが増えるほど、ALISトークンの通貨としての価値も高まると期待でき、そのたび記事の執筆や閲覧が積極的に行われていくと考えられるでしょう。

飲食店の口コミを促す「シンクロライフ」

株式会社GINKAN(ギンカン)の運営する「シンクロライフ」は、ユーザーが飲食店に対するレビューを投稿できる「グルメSNS」です。「加盟店での飲食」や「レビュー投稿」といった行動に対するトークンとして、「シンクロポイント」が付与される仕組みが導入されています。

シンクロポイントはアプリを通じて18,000件以上の店舗で利用でき、さまざまなサービスをお得に受けることができます。

また、「加盟店での飲食」をした場合には、シンクロポイントだけではなく、ビットコインやイーサリアムなど、仮想通貨の形でトークンを受け取ることも可能です。

レビューの質を担保するためのシステムとしては、「投稿されたレビューそのものが評価の対象になる」制度が取り入れられています。見る側の参考になるレビューや、「行きたい」と思わせるようなレビューに対して、より多くの報酬が設定されるシステムです。

なお、2022年8月からは、正式版のプラットフォームが展開され、これまでの「シンクロポイント」が独自トークン「SYC(SynchroCoin)」として受け取れるようになりました。 (参照:SynchroCoin「グルメSNS「シンクロライフ」、4年間の「Eat To Earn」β版運用を経てWeb3化へ。レビュー投稿報酬をネイティブトークン「SYC」で受取可能に。」)

「湘南ベルマーレ」のファントークン

スポーツチームやアーティストなど、「ファン」によって支えられている業界は、トークンエコノミーが特有の形で発展する可能性を秘めています。

たとえばJリーグの「湘南ベルマーレ」は、ブロックチェーン技術を用いたクラウドファンディングサービスの「FiNANCiE(フィナンシェ)」を通じて、独自の「ファントークン」を発行しています。ファンがトークンを購入することで、試合観戦や投票企画への参加などの特典を受け取れる仕組みです。

ファントークンが通常のクラウドファンディングと異なるのは、参加者の間でトークンの売買が可能な点にあります。これにより、トークンの価値が流動的になり、「チームのファンが増えるほど、保有するトークンの価値も向上する」可能性が生まれるため、トークンが「投機対象」としての側面を持つことになるのです。

ファントークンの強みは、「チームの利益とファンの利益が合致する仕組み」が構築しやすい点にあります。今後、トークンの使い道を拡大するなどの施策により、「欲しい」と思うファンを増やすことができれば、「チームを盛り上げよう」というファンの動きも促進され、応援する側・される側が相互にメリットを与え続ける関係が構築されうると考えられます。

(参照:湘南ベルマーレ公式サイト「第3回湘南ベルマーレクラブトークン販売のお知らせ」)

トークンエコノミーの作り方のヒント

企業や個人などが独自の経済圏を展開することは、消費者を長く自身の商圏に置き、継続的な関係を取り結ぶうえで大きな意味を持つでしょう。

とはいえそれぞれの参加者が「継続的にコミットしたい」と思えるトークンエコノミーを成立させるには、「魅力的なトークンを通じて参加者をシステムに巻き込むこと」に加え、「トークンを通じた実効的な取引システムを成立させること」が必要になります。

実際にトークンエコノミー構築する際には、事前の設計段階における入念な準備が必要です。以下ではその際のポイントについて解説します。

促したい行動と、それへのインセンティブを設計

トークンエコノミーを構築する際には、その経済圏に含まれるさまざまな主体に対し、魅力的なメリットを提示することが必要です。

まずは「独自の経済圏を通じて、最終的にどのような目標を達成したいか」を鑑みつつ、システムの全体像を素描していきましょう。

目的を明確にし、システムの全体的なイメージを形成したうえで、実現のために「参加者からどのように貢献してもらう必要があるか」をはっきり見定めることが求められます。そのうえで、「どのようなメリットがあれば、参加者はシステムに貢献してくれるか」という点をブラッシュアップしなければいけません。

この際重要なのは、エコノミー内部で動くさまざまな参加者の視点に立つことです。「彼らにとって何が満足につながるか」を多角的に見定めつつ、「そこに参加していることによって、何らかの喜びがもたらされる」ような仕組みを作っていきましょう。

その際は、経済的な観点はもちろん、「コミュニティ運営に影響を与えられる喜び」や「誰かを応援したい気持ち」といった面から訴求していく方法も考えられるでしょう。

独自トークンの価値を保つためには

設計したトークンエコノミーの内部に参加者を引き留めておくには、トークンそのものの価値を継続的に担保していく必要があります。トークンの仮想通貨としての価値は流動的になりやすいため、暴落のリスクを防ぐためには「投機先としての価値」だけではなく「システムそのものの魅力」が求められるでしょう。

トークンエコノミーを安定して維持するうえでは、「認知されるイメージ」と「システムの現状」との乖離をなくしていくことが大切です。たとえば、立ち上げ段階で革新的なビジネスモデルを大々的に宣伝し、投機先として注目を集め、一時的にトークンの価値が高騰したとしても、その後目ぼしい動きを打ち出せなければ、トークンの価値低下を防ぐことはできません。

明確なビジョンのもとで、継続性のある安定したシステムを設計することが、長期的な運営のためには欠かせません。さまざまな面から、「このシステムに関与していたい」「トークンを保有していたい」と思えるようなモデルを構築できるかどうかが、トークンエコノミーの成否を分かつことになるでしょう。

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この記事を書いた人

鹿嶋 祥馬
大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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