
行動心理学の用語と効果~マーケティングに役立つ知識~
顧客や取引先など相手の心理を掴むことは、ビジネスシーンのいたるところで重要です。とりわけ「行動心理学」を知ることは大きなアドバンテージになり得ます。効果的な施策・戦略を打ち立てるにも、一役あるいは二役以上買ってくれるはずです。
そういうわけで、本記事では(マーケティングに使える)行動心理学にフォーカス。
おさえておきたい用語や、それぞれの効果について(心理)タイプ別に幅広く取り上げ、解説します。
ぜひ、仕事のなかで活用してみてください。
目次
行動心理学とは?マーケティングに有効な理由

そもそも行動心理学とは何でしょう。
一言で定義するならばそれは、相手の何気ない行動から科学的に本心を探る学問です。
一般的にはアメリカの臨床心理学者であるジョン・ブレイザー・ワトソンの提唱した行動主義的心理学が発端だといわれています。
数多存在するあらゆる心理学が意識を起点としているのに対して、行動心理学の場合、あくまで着目するのは仕草やアクションです。そこから心理を読み解きます。
もちろん、生かせる場面はプライベートだけに留まりません。ビジネスの現場でも注目されるようになり、今や多くの企業で重用されています。
マーケティングに効果的!
マーケティングは、顧客心理の傾向を踏まえ行うものです。
「いかに消費者の購買意欲を刺激できるか」
「行動喚起につながる心理状態に誘導できるか」
この命題は、文字通り行動心理学の活用によって、面白いようにスムーズに紐解けることがあります。裏を返せば、効果的なマーケティング手法は行動心理学を内包しているといえます。商品・サービスの集客、販促にはもはや欠かせない知識といってもいいでしょう。
主な行動心理学の用語、効果の紹介

顧客心理を図ることは確かに困難です。そのため、いくら突き詰めてもあくまで想像の域だと端から諦めていませんか。けれども、実際は行動に着目することで読める心理も存在します。しかも多数。それが、まさしく行動心理学です。
以下、具体的に用語と効果を紹介します。
他人の意見に影響を受けてしまう行動心理学

まずは、“他人の意見に影響を受けやすい”心理に関するものです。
ウィンザー効果
第三者を介して伝えられた情報は、直接告げられる情報よりも信頼されやすい傾向にあります。ウィンザー効果とは、この心理が動いたものです。
インターネット上の口コミやSNSの評判が購買のきっかけになることは、まさしく現代において(ウィンザー効果の)典型的な例だといえるでしょう。
バンドワゴン効果
多くの人が持つもの、得るものを同じように自分も選び、買い、結果どんどん需要が増大する現象をバンドワゴン効果と呼びます。マーケティングで活用する場合は、いわゆるトレンド訴求です。流行していることは(バンドワゴン効果によって)少なからずアピールポイントになり得ます。根底にあるのは、他者と同じでいること、多数派に所属することで安心感を抱く人間の性質です。そのため、バンドワゴン効果は社会的証明の原理とも呼ばれます。
権威への服従心理
権威のある人の意見には、無条件に従ってしまう心理です。
商品に対して専門家や学者、教授など、地位や肩書きのある人たちが推薦していたならば、(その商品を)好意的に捉えやすくなります。
近年よく見受けられるインフルエンサーの活用(影響力のある人からの情報発信)も、この心理を利用した手法の一つです。
準拠集団
価値観や態度、行動などその人の意志決定に強い影響力を持つグループを準拠集団と呼びます。準拠集団は家族や職場に加え、SNSのコミュニティも該当し、その時々で移り変わりも早いのが特徴です。
消費者またはユーザーの準拠集団を整理することで、ターゲットとすべき属性の解像度も高まります。ペルソナ設定にぜひ活用したい行動心理であり概念です。
印象に残りやすい、変化しやすい行動心理学

あるテーマやジャンルに対して自社商品やサービスを(できれば第一に)想起してもらうべく、マーケティングやブランディングは欠かせません
誇張せずとも(商品やサービスを)自然に覚えてもらうことは、多くのマーケターの課題だといえます。
以下ピックアップするのは、ややもすれば移ろいやすい、たゆたう人の心理です。
ザイオンス効果
人は接する回数が多いと次第に好印象を持つようになるといわれています。この心理を生かしたものが、動画広告やリターゲティング広告です。その他、メールマガジンやプッシュ通知も当てはまります。
逆効果にならないよう頻度には注意が必要ですが、何度もユーザーの目に触れる機会を作ることで、いつの間にか身近で好意的な印象を持たせる効果が期待できます。
ストループ効果
相反する意味の情報が同時に目に入ると、人は反応(認識、咀嚼)するまでに時間が掛かります。結果、困惑を招くといってもいいでしょう。
たとえば、赤(色)で書かれた“青”という文字を見た時などです。
当然のごとく、受け手の心証は下がります。
広告チラシやWebサイトをデザインする際は、ストループ効果が生じていないかどうか注意しましょう。意図せず起きていることも珍しくありません。
クレショフ効果
直接関係のない映像や画像をいくつか並べることで、なぜか人はそれら(の意味)を関連付けて解釈してしまう傾向にあります(心理が働きます)。
たとえば、ある食品のページに緑や自然の写真を複数枚挿入した場合、それだけで(その食品に対して)オーガニックやナチュラルといった印象を抱く方が出てきてもおかしくありません。
裏を返せば、この要領でブランドイメージの確立につなげることが可能だといえます。
カクテルパーティー効果
人は、多くの情報が溢れるなかでも自分に該当するものだけに反応しやすいといいます。この心理を用いた典型的なキャッチコピーが「○○の悩みを解決したいあなたへ」です。
カクテルパーティー効果をうまく活用すれば、特定のターゲットへ一直線にアピールできます。上記の例などはもはや常套フレーズです。
アフォーダンス理論
物の色や形などのデザインが、その使い方の情報を発信しているという考え方です。主な例として、蛇口の形状や、硬貨の形になっている差込口などが挙げられます。
認知心理学でよく用いられますが、行動心理学でも無視できない要素です。
ユーザーをスムーズにコンバージョンポイントへ誘導するためのサイト設計が、まさにそう。マーケティングに適用できる心理効果です。
フォールスコンセンサス
認知バイアスの一つで、自分が多数派であると思い込む心理です。この状態に陥ってしまうと、たとえば制作や施策が間違った方向へと進む可能性が生まれます。
そうならないためには、第三者の意見の導入やユーザー調査が必要です。
と、それ以前に、こうした心理を自覚することがまずは大切だと考えます。
選択の場面で見られる行動心理学

選択肢を与えることはマーケティング手法でもお馴染みです。これはユーザーあるいは消費者の心理が何かしら働き行動に結びつきやすいことを示唆しています。
以下の法則は、“選択”に対する行動心理学の王道です。
確実におさえておきましょう。
決定回避の法則
人は、選択肢が増えすぎると意思決定を避ける傾向にあります。
多数のオプションを前にして、「煩わしい」「面倒だ」と思うようになり購入自体をやめてしまうといったケースです。
こうした心理を働かせないためにも、受け手に対しては選択肢を絞って提示することが無難です。
現状維持の法則
何かきっかけや理由がない限り、(たとえ迷ったとしても)結局は過去に選んだものと同じ商品を選ぶことってありませんか。これは現状維持の法則です。
なお、前述同様、選択肢の数が多ければ多いほど無意識のうちに負担を感じやすくなります。結果、習慣的に以前と同じ選択をすることがほとんどのようです。
松竹梅の法則
サービスや商品の選択肢が3つある場合、多くの人は(価格面など)中間を選ぶ傾向にあります。この法則を利用すれば、(利益率の高さなどを理由に)選んでほしいプランを真ん中に置くことで、思惑通りの成果につなげられるかもしれません。
購買意欲が増す行動心理学

人が購買意欲を掻き立てられるきっかけや要素はさまざまです。
そのなかで、以下紹介する心理効果は、見込み客を増やすヒントとして特に活用できるものだと考えます。
スノッブ効果
皆と同じものを購入したくなるバンドワゴン効果がある一方で、人には、入手困難なものに惹かれる心理も存在します。これはスノッブ効果です。
希少性が高い商品は、うかうかしているとすぐに売り切れるかもしれません。と、そう考えてしまう時点で購入の自由は奪われています。その結果、心理的リアクタンスが働きます。
期間限定、個数限定といった惹句を打ち出す商品は、まさにこの心理を利用したものです。
ヴェブレン効果
スノッブ効果に似ていますが、こちらは高価で他の人が持っていないことに価値を感じる心理です。ブランド品を持つことにステータスを感じるのも、この心理が働いています。
ディドロ効果
新しい価値観や環境に合わせて身の回りを統一させようと、(調和を図るべく)買い替えや情報収集に夢中になる心理です。
統一のために消費がエスカレートすることも、決して珍しいケースではありません。
たとえば、初めて知る洋服のブランドをコンセプトなど含めて気に入った顧客が、その後リピーターになりやすいのもこの心理効果によるものといえます。
テンション・リダクション効果
たとえばECサイトでお買い物中、購入完了の画面でおすすめ商品が表示され、気になり、あわせて買いたくなった経験はありませんか。その心理がまさにテンション・リダクション効果です。
当初はあれこれ悩んでいたにもかかわらず、一度購入を済ませたことで、(購入自体に対しての)心理的ハードルが下がる現象を指します。
気分一致効果
その時々の気分や感情と一致する情報に惹かれる心理効果のことです。たとえば、通販番組はこの心理をわかりやすく利用しています。明るく楽しい雰囲気で、購入に結びつきやすい高揚感と商品へのポジティブなイメージを与える構成は、まさに気分一致効果を期待させるものです。
保有効果
保有効果とは、一度手に入れたものに対して高い価値を感じやすく、手放すことに抵抗を感じやすい心理を指します。
商品保証期間内での傷や不備に対して、返品や返金申請に行き着くケースは案外多くないと聞きますが、おそらくそれは、保有効果も一つの理由に挙げられるのかもしれません。
一見ネガティブ要素とも捉えかねない行動心理学

行動心理学のなかには、不快感を含めて一見ネガティブに思える要素が起点となるケースも少なくありません。
そしてそれらは、思いのほかポジティブな結果へと導いてくれます。そう、つまりは、マーケティングにも有効です。
以下、主な心理効果を紹介します。
認知的不協和
認知的不協和とは、矛盾する認知を抱えながらも、同時に相反する行動を取ってしまう心理です。卑近な例では、「太ると分かっていても甘いスイーツがやめられない」「身体に悪いがタバコを吸いたい」といったケースが挙げられます。
裏を返せば、こうした矛盾を解消したいと願う人が多いからこそ、(認知的不協和の)
解決策をどかんと提示できれば、マーケティング上、有効に作用するはずです。
カリギュラ効果
カリギュラ効果とは、行動を禁止されたり制限されたりすると、かえってその欲求が強くなる心理を利用したものです。
一例を挙げると、ページタイトルの冒頭やキャッチコピーでよく見受けられる「閲覧注意!」の文言でしょうか。一見、読者を近づけない行為に思えますが、興味を惹きつけるには、むしろこの上なくほどの一言です。
ツァイガルニック効果
人はできあがりよりも未完成なものに惹かれる傾向にあります。ここで働く心理が生み出す行動はツァイガルニック効果です。
ドラマの佳境、絶妙なシーンで「次回へつづく」のテロップ。まさに典型です。
もちろん、キャッチコピーやメルマガ、コラム、動画……等々あらゆる媒体でマーケティングにも生かせます。
目的や欲求が満たされないがゆえに高まる興味。人の心理の真理が垣間見える、実に面白い現象だと思います。
工夫一つでポジティブになれる行動心理学

サービスや商品をより良く見せるには、やはり人の心理をうまく使うことが大事です。
以下、紹介する心理効果は、ビジネスシーンで大いに参考になるものと思われます。
#両面提示の法則
メリットだけでなく、あえてデメリットも提示することでその商品に対する信頼度が高まる法則です。
できれば両面知りたいのが顧客心理。お断りされるリスクは確かにあるとはいえ、後々のトラブル回避も含め中長期的に考えれば、やはりプラスに働くことが多いはずです。
リフレーミング効果
見せ方一つで消費者心理を掴む手法がリフレーミング効果です。
たとえば、値引き額か値引き率かはたまた値引き後の価格か、状況に応じて受け手の印象、お得感は変わってきます。
値引き率に関しても、“50%引き”よりも“半額表示”の方が購入につながりやすいなど、細かい違いが大きな差を生むことは往々にして見受けられることです。
フットインザドア
交渉時、本題から入るのではなく、はじめは小さなお願いに応じてもらい、相手の警戒心が緩んだ段階で大きな要求をするテクニックをフットインザドアと呼びます。
購入に対する心理的ハードルを下げることで勝機をうかがい、本来の目的達成へとつなげる戦略です。
ダブルバインド
2つの矛盾するメッセージで相手の心理にストレスをかけることを意味する言葉です。マーケティングにおいては、あらかじめ好ましくない選択肢(“購入しない”など)を排除し、ユーザーを混乱させ、行動を制御する手法を指します。
バーナム効果
バーナム効果とは、誰にでも該当するような曖昧な事象を、自分(あるいは自身の所属するコミュニティ)だけが当てはまるものだと錯覚してしまうことです。この心理効果はセールストークや占いなどで利用されることも少なくありません。
文脈効果
前後の情報や周囲の環境によって言葉や数字の捉え方は変わります。これは文脈効果によるものです。仮にキャッチコピーでこの心理効果を用いれば、良いイメージの喚起や商品価値の向上にもつなげられます。
返報性の原理
恩恵を受けた相手に対しては、何かしらお礼やお返しの行動を取りたいと思うのが人の心理です。それゆえ、この返報性の原理に期待し、(マーケティング手法の一環として)購入の見込みが無いと思われる方々に対しても、丁寧な接客だけでなく無料サンプルや試飲・試食といった手厚いサービスまで行う企業は多々存在します。
ドアインザフェイス
ドアインザフェイスとは、フットインザドアとは反対に、本題の要求を了承してもらうために、あえてより大きな要求を提示する手法です。返報性の原理の応用で、譲歩することにより相手の感情を誘導しやすい効果があります。
メラビアンの法則
メラビアンの法則とは、視覚や聴覚、言語の情報により人の印象が決定するというものです。この法則に従い、接客や営業を行う企業も少なくありません。
先入観に作用する行動心理学

先入観や第一印象は人の心理を強く支配することが多く、時には最終的な意思決定にまで影響を及ぼします。それゆえ、マーケティングでも重用されている印象です。
以下の心理効果に関して、思い当たる節が少なからずあるのではないでしょうか。
ハロー効果
あらゆる要素を吟味し総合的に判断したい局面においても、どうしても一つの印象に引きずられてしまい、その商品に対する評価(の妥当性)が歪むことがあります。これがハロー効果です。TVCMなどがまさに顕著な例といえるでしょう。
企業のブランディングイメージを高めるために利用されることが多い心理効果です。
初頭効果
先述の通り、人は第一印象に影響を受けやすく、それを軸に物事を評価する傾向にあります。これは初頭効果です。この理論を踏まえると、もっとも伝えたい商品の強みは、はじめに提示することが大事だということがわかります。
親近効果
初頭効果とは反対に、最後に与えられた情報が印象に残りやすいという考え方が親近効果です。複数の情報を提示して、あえて一番アピールしたい内容を末尾に述べることで、新鮮なインパクト(を与えること)が期待できます。
リスク回避に使える行動心理学

上手にマーケティングを行ううえで大切なことの一つに、リスク回避を望む消費者心理への配慮が挙げられます。
以下、紹介するものはいずれもリスクヘッジがベースです。
プロスペクト理論
損失や利益の程度を天秤にかけ意思決定を図る心理を指すのがプロスペクト理論です。
この性質をマーケティングに生かすならば、リスクを補う側面や通常時と比較したお得感を顧客にアピールする必要があります。具体的には、期間限定商品の販売やポイントが当たるキャンペーンの実施などが有効です。
マッチングリスク意識
マッチングリスク意識とは、購入後を想像した時に、商品やサービスが自分に合っていないのではと不安を抱く心理を指します。
こうした事態を極力招かないよう、フォロー体制やサンプル配布などの対策を講じることが大事です。
損失回避の法則
得をするよりも損をしないことを重視する心理が損失回避の法則です。
メリットの積み重ね以上にデメリットの排除こそが顧客目線に立った時、有益なのかもしれません。マーケティングを行うにあたっては、この辺りも念頭に置くようにしましょう。
行動心理学はビジネスシーンで幅広く活用できる!

行動心理学を理解することは大切です。繰り返しお伝えしている通り、うまく適用できれば、マーケティングひいてはビジネスシーン全般において成果が期待できます。
拙稿で取り上げた用語については、いずれも身近なものです。とはいえ、いくつかは知らないものもあったかもしれません。
新たな知識を得ることもちろん、再度向き合い理解を深め、今後何かしら役立てていただけますと幸いです。
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