パルス型消費行動とは?従来のカスタマージャーニー型との違いも解説
スマートフォンの普及とともに、さまざまなECサービスが身近なものになり、消費者の購買行動は年々多様化しています。経営・マーケティングにおいては、時代動向をしっかりと捉えながら戦略を定めていくことが求められるでしょう。
とりわけ近年では、スマートフォンを中心とした消費行動のなかでも、「パルス型消費行動」と呼ばれる傾向が顕著に見られるようになりました。これにともない、従来の対策とは異なる観点からのマーケティングが必要になると考えられています。
この記事では、パルス型消費行動の概要や特徴をふまえ、対策のポイントについても解説していきます。
目次
パルス型消費行動とは
「パルス(pulse)」とは「脈拍」や「鼓動」を意味する言葉であり、転じて「瞬発的に生じる抗いがたい心情」といったニュアンスをもちます。ここから、たとえばスマートフォンでコンテンツを閲覧している状況などで、意図せず「コレが欲しい」という衝動に突き動かされ、購買行動に至るモデルを「パルス型消費行動(パルス型消費)」と呼びます。
この消費モデルは2019年、Googleによってユーザーの消費行動の定量調査・定性調査結果として導出された消費性向です。従来のマーケティング理論では捉えきれないモデルとして、マーケターを中心に近年急速に注目されるようになりました。
パルス型消費が顕著に見られるようになった背景としては、スマートフォンの利用時間が増加していること、さらにECサイトなどでの商品購入が簡便化していることが挙げられるでしょう。ネットスラングの「ポチる」という言葉からも見て取れるように、今では「指先の動き1つ」で購買行動を済ませることが珍しくなくなりました。
現在では実店舗に行かずとも、多くのユーザーが移動中や仕事の合間などの「スキマ時間」にWeb上のコンテンツに触れています。このように「時間や場所に関係なく、すぐにモノを買える状況」が当たり前のものになったことが、パルス型消費の環境的要因となっていると考えられます。
パルス型消費の特徴
意図しない衝動から商品やサービスを購入するという点で、パルス型消費はいわゆる「衝動買い」と近いモデルであると考えられます。
Googleは従来の「衝動買い」と「パルス型消費」の違いとして、以下の点を挙げています。つまり、衝動買いは「非日常的な趣味嗜好」に関わる商品において多く見られ、一方のパルス型消費では「日常的に消費する商品」においても散見されるというのです。
さらにGoogleは、EC利用時における消費者の選択基準の変化についても報告しており、たとえば調査を通じて「以前に比べブランドや知名度が重要視されなくなった傾向」が示されました。
マーケターが注目すべきポイントとして、「もともとの検索ワードとは一見関係のなさそうな商品が購入される傾向」についての指摘が挙げられます。例示されているのは、花粉症について調べていたユーザーがあるブログ上で「花粉の時期に沖縄に行く」という内容を目にした結果、沖縄旅行を予約するというケースです。
総じて、パルス型消費は「偶発的」かつ「散逸的」な傾向を示しており、明確な文脈やプロセスを欠いた消費行動として特徴づけられています。
(参照:Think with Google「データから見えた「パルス型」消費行動——瞬間的な購買行動が増えている:買いたくなるを引き出すために:パルス消費を捉えるヒント(2)」)
カスタマージャーニー型消費との違い
パルス型消費と対をなすモデルとして、「ジャーニー型」あるいは「カスタマージャーニー型」の消費行動を位置づけることができるでしょう。
カスタマージャーニーとは、直訳すると「顧客による旅」という意味であり、購買行動において消費者が「商品への興味を抱く段階」から「情報収集」「比較検討」と、一定の時間とプロセスを経て購入を決めるモデルを指しています。
カスタマージャーニーのモデルは従来、「消費行動のスタンダード」として位置づけられてきたことから、マーケティングのフレームワークもこのモデルを軸に設計される傾向にありました。商品の利用者像を明確に設定し、ターゲットの思考の流れをシナリオ化することで、顧客との接点を適性化することがジャーニー型のマーケティングの要旨です。
もちろん現在でも、情報収集や比較検討などのプロセスを踏んでいくモデルはスタンダードな消費行動であり、カスタマージャーニーを念頭に置いたマーケティングは有効だといえるでしょう。
しかし一方で、動画や画像を「一目見た印象」で購入を決めたり、話題になっている商品を瞬発的に購入したりといったパルス型消費行動に対しても、有効な対策を用意することで、商機を広げられると考えられます。
パルス型消費を引き起こす6つのトリガーと具体例
パルス型消費行動を分析したGoogleは、このモデルが消費者のどのような「直感センサー」によって引き起こされているのかについても考察を加えています。消費者が衝動的に商品やサービスを購入するとき、重視されている観点として、以下の6つの要素が挙げられています。
(以下参照:Think with Google「消費者が「ピンとくる」6 つの直感センサー:買いたくなるを引き出すために:パルス消費を捉えるヒント(3)」)
セーフティ
セーフティは「安全性」であり、消費者が安心感をもって商品を購入できる状態を指しています。オンラインショッピングのリスクが周知されるなかで、消費者が直感的な購買行動に至るためには、販売業者やプラットフォームへの信頼感が欠かせません。
たとえばネットサーフィン中にWeb広告で気になる服を見つけても、ECサイトに遷移した際にメーカーや販売店の素性がわからなければ購入を控える、といったケースが考えられるでしょう。
一方で、ECサイトが有名なメーカーのものであったり、あるいは問い合わせや返品のフローが明確に案内されていたりと、消費者にとって「安心できるポイント」があれば、スムーズに購入を決められると考えられます。
その他、販売者情報の明示や、専門家によるコンテンツの監修など、信頼性につながる要素を充実させることが、消費者の不安を取り除くことにつながるでしょう。
フォーミー
フォーミーとは「私のため」という意味であり、Googleはこれを「自分にピッタリだと思うもの」と説明しています。
たとえば「ちょうど欲しいと思っていた色合いのリップ」や、「求めていた機能とデザインが備わったヘッドホン」など、個人の趣向に当てはまる商品がこれに該当するでしょう。
現在では、ターゲットを設定したディスプレイ広告や、以前の訪問者に再度商品情報を表示するリターゲティング広告など、「個々のユーザーに応じた広告表示」が可能となりました。こうした技術的な背景も、この「フォーミー」をトリガーとする消費行動につながっていると考えられます。
コストセーブ
コストセーブは「費用を抑える」ことを意味します。Googleによる説明においては、「欲しい商品を買うとき、複数のサイトを比較して安いところを選ぶ」という例が挙げられています。
この例では比較検討のプロセスが入っていますが、より衝動的なモデルとしては、たとえば「以前から欲しかった商品がキャンペーンで安くなっていたので購入を即断した」といったケースが考えられるでしょう。
コストセーブの観点は、「半額」や「期間限定」など、直感的な「お得感」が購買行動に直結しやすいことを端的に示しています。
フォロー
フォローは「ついていく」ことであり、他者から何らかの影響を受けて購買行動に至るモデルを指しています。SNSや口コミサイトの充実している現代においては、とりわけ消費行動と密接に関わる要素だといえるでしょう。
たとえば「SNSで話題になっている商品」や、「インフルエンサーが動画で取り上げている商品」などがヒットするケースが挙げられます。もちろん、「口コミサイトで高評価を得ている商品」も同様です。こうした「第三者による評価」を信頼し、実際に実物を確認せずとも商品の購入を決める、というケースは今や珍しくありません。
アドベンチャー
アドベンチャーは「冒険」であり、未知のものへの好奇心がパルス型消費のトリガーとなりうることを示しています。
たとえば新しい服を買うときに「これを買えば自分はどんな風になれるだろう」といったワクワク感を覚えたり、新しいゲームを買うときに「どんな世界が見られるだろう」と興奮したりといった例が考えられるでしょう。
アドベンチャーの観点は、「消費者のセルフイメージ」や「切り拓かれる世界」についての想像が、購買行動を引き起こしやすいことを示しています。
パワーセーブ
パワーセーブは「労力を抑えること」であり、消費者が買い物にかかる手間をなるべく減らそうとする傾向を表しています。
たとえば自動車のタイヤを購入するときに、店舗を訪れた際には規格やサイズなど自身の車との適合を確認しなければならず、購買時の留意点が多くありました。しかし、ECサイト上で「車種を入力すれば自動的に適合する商品が表示される」機能が登場し、購入における消費者の負担は大きく軽減されています。
このように、技術的な環境が変化することで、消費者側の「考える手間」が減っていることも、パルス型消費が高じている背景の1つとして考えられるでしょう。
パルス型消費行動への対策
パルス型消費の「なんとなくピンときた」という偶発性に対して、マーケティング的な観点から対策を練ることはきわめて難しいといえます。
重要なのは、購買行動を引き起こすセンサーに訴えかけるような刺激を随時ターゲットに届けようと試みることでしょう。そのうえで、以下のようなポイントが必須になると考えられます。
広告のターゲティングとキャンペーン施策
Web広告をユーザーの属性や興味関心に応じて表示できるようになった現在は、直感センサーのなかでも「フォーミー」の契機に訴えかけやすい環境にあるといえます。
広告を見たユーザーが「自分にピッタリだ」と感じられる機会を増やせるよう、自社の手がける商品やサービスの利用者層を明確に想定したうえで、広告のターゲティングの精度を高めていく工夫が重要になるでしょう。
さらに、自社の商品に関心を抱いている既存客や見込み客に対し、キャンペーンなど「お得」「限定」に関わる情報を的確に届けていく観点も大切になります。
魅力をシェアできるシチュエーションを作る
動画投稿プラットフォームなどで商品や作品を紹介するコンテンツが数多く投稿されている現在では、「フォロー」と「アドベンチャー」との相乗効果が期待できる環境にあります。たとえば「TikTokで紹介された作品に興味を抱き、実際に購入する」といったケースも考えられるでしょう。
ここから、「消費者が他人に魅力を広めやすい商品」がパルス型消費行動を引き起こす1つのカギになるといえます。アクの強い商品や、尖った性能を備えた商品も、消費者がそれを「面白い」と感じ拡散することで、パルスが波及していくこともあるでしょう。
商品の魅力を打ち出す際に「誰かに教えたくなる」「見せたくなる」ようなポイントを訴求したり、SNS上で商品に関するハッシュタグを用いて投稿を促したりと、ユーザー自身が魅力を広めたくなる施策を打ち出していきたいところです。
インターフェースの整備
ユーザーのニーズと商品がマッチしていても、買うまでに多くの手間がかかっては、購入を見送られてしまうケースも考えられます。たとえば規格や仕様がさまざまに異なる商品の場合には、ユーザーが情報を調べる手間を減らすことが重要なポイントになるでしょう。
さらに、ECサイトの導線が整理されているなど、ストレスなく利用できる環境は、ユーザーの信頼感・安心感にもつながります。セーフティのセンサーに訴求する意味でも、サイトのインターフェースは見やすく使いやすい形に設計しておきたいところです。
すぐに取りかかれる対策としては、販売店の情報を目につきやすい箇所に掲載したり、決済方法や送料など消費者にとって「気になるポイント」をわかりやすく記載したりといった点が挙げられます。さらに、トラブルがあった際の返品対応や、アフターフォローを充実させるなど、安心して買い物ができる環境やシステムを整えることが重要です。
対策の難しいパルス型消費ですが、望ましい成果をあげるうえでは、まず「手をつけられるところ」から着実に対処していくことが大切です。「ユーザーの目に留まるための工夫」に加え、「スムーズに購入してもらうための工夫」を意識しながら、消費者目線からの改善を積み重ねていきましょう。
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