パーパス・ドリブンとは?ブランドパーパスを実現させた事例とともに解説
企業にとって、自社の認知を拡大し、望ましいイメージを定着させることは普遍的な課題です。自社のカラーやコンセプトを世に広める「ブランディング」は、経営の核心に位置づけられるものでしょう。
従来、ブランディングにおいて重視されてきたのは、その企業が顧客に提供する「ベネフィット」の適切な伝達です。「そのサービスや商品を手にすると、どんないいことがあるのか」という点が、広告や宣伝を通して伝えられてきました。
一方、今後のブランディングにおいては、ベネフィットに加えて「自社の社会的なスタンス」を明確にすることが求められていくと考えられます。その理由として、「これまで社会に潜在していた課題」が広く共有されるようになった点が挙げられます。情報発信手段の多様化により、環境問題や人権問題をはじめ、「社会が向き合うべき課題」がさまざまに提示されるなか、企業としてもそれらに対処する姿勢が問われる世の中になったのです。
企業として「社会に向き合う姿勢」を表明することは難しくありませんが、社会的に求められるスタンスと、経営的な観点を折り合わせていくのは簡単なことではないでしょう。鍵を握るのは、自社の社会的な存在意義としての「パーパス」に焦点を当てたブランディングです。
この記事では、新しい時代におけるブランディングのキーワードとなる「パーパス・ドリブン」な企業のあり方について解説し、事例とともに「これからのブランディングに何が求められるのか」を考察していきます。
目次
パーパス・ドリブンとは
「パーパス・ドリブン(purpose driven)」という言葉は、直訳すると「目的(purpose)に駆り立てられた(driven)状態」という意味になります。言い換えれば、「組織全体が、大きな理念や方針に導かれている様子」を表しているといえるでしょう。
「パーパス・ドリブン」という言葉が用いられるのは、多くの場合「企業のブランディング方針」を定める文脈においてです。ここでの「パーパス」とは、自社内で掲げる「経営目標」のみを指すのではなく、社会に広く認知されるような「企業としての存在意義」といった含みを持っています。
つまり、その企業のパーパスは、「社会にどのような価値を提供するのか」「共同体のなかでどのように位置づけられるのか」を表すことになります。ここから、企業におけるパーパスの明確化は「経営方針の共有」というだけでなく、「社会に対する理念の表明」としても機能することになるでしょう。
以上の点をふまえれば、「パーパス・ドリブン」という言葉で表されているのは、その企業の「社会的な存在意義」を組織として共有し、現実の商品・サービスに反映していくあり方だといえるでしょう。
企業のパーパスを明示する意義
ブランディングにおいて「パーパス」の重要性が増している1つの背景としては、「社会問題に対する世の意識の高まり」が挙げられます。
SNSをはじめ、情報交換手段がさまざまに発達したことにより、社会問題に対する人々の反応がリアルな形で可視化されるようになりました。その結果、「今、世界で何が問題になっているのか」ということに対して、各人がこれまで以上に当事者意識を抱くようになったと考えられます。
たとえば「SDGs」に見られるように、「世界の持続可能性」は社会的に共有される課題となりました。これに伴い「持続可能性への意識を高めること」が、それぞれの経済主体に求められる態度として定着しつつあります。
とりわけ、利潤を追求する企業活動においては、「持続可能性」という観点は副次的なものになりやすいと考えられます。企業活動が「社会的責任よりも利潤」という状態に陥りやすいからこそ、企業がその社会的な存在意義を明確に打ち出し、責任を担うスタンスを表明することが重要視されているのです。
環境問題のほか、人種・ジェンダーをはじめとする人権問題、労働問題など、社会における企業の立場が問われる問題は枚挙にいとまがありません。それゆえに、いまや企業のブランディングは、「社会的に共有される課題に対し、どのように関わり、具体的なアクションを起こしていくか」という観点抜きには成立しえなくなっているといえるでしょう。
パーパス・ブランディングに求められる要素
パーパスに主導されるブランディング(パーパス・ブランディング)においては、これまでの市場・顧客分析にはなかった社会的視点が求められるようになります。以下では、自社のパーパスを掲げるうえで、必須となるポイントを解説します。
社会的視座にもとづく自社の位置づけ
パーパス・ブランディングにおいては、自社の存在意義を「社会的に」明示することが求められます。「自社の商品・サービスが消費者にもたらす価値」をより広い視野で捉え、「その価値が今後の社会においてどのような意味を持つのか」といった部分を明確にしていく必要があるでしょう。
重要なのは、「自社の現在地」を社会的な視座のもとで捉えることです。従来のように、関連業界の市場動向を把握することはもちろんですが、これに加えて「社会情勢に対する俯瞰的な視点」が要求されることになるでしょう。
つまり、「競合他社との違い」を明確にしつつも、その違いやアドバンテージが「社会に何をもたらすか」にまで視野を押し広げることがポイントになります。社会的視野を持つうえで、日頃からさまざまなメディアの情報に対する感度を高め、世の関心がどこに向かっているかをフォローする姿勢が必須になると考えられます。
パーパスへの社会的共感
ブランディングにおいては「共感」が重要なポイントですが、この点はパーパス・ブランディングにおいても同様です。自社の商品やサービスに明確な社会的意義があったとしても、それが消費者からの共感を生まなければ成り立ちません。
共感を生むためには、ブランドストーリーへの「納得感」が必要です。社会的に納得される条件としては、「背景と動機」に自然なつながりがあること、さらに「動機から行動」の流れに一本の軸が通っていることなどが挙げられます。単純に「この問題に取り組んでいる」というだけではなく、その問題に企業としてコミットする理由や、取り組みの内容を開示し、これらを一連の流れとして整理しなくてはいけません。
総じて、自社や消費者が置かれている社会の現状をふまえ、「なぜそれが求められるか」を明示し、「それに対してどのように取り組むか」を打ち出していく必要があります。その際、ストーリーに論理的・情緒的な一貫性を持たせられるかどうかが、共感や納得感を生むポイントになるでしょう。
パーパスと収益構造のシナジー
企業のブランドパーパスは、「社会的な存在意義」を示すものであるため、おのずと「社会貢献」としての側面が強調されやすくなります。ここで重要なのは、パーパスにおける「社会貢献」の要素を、「収益向上」という企業活動の本質と両立させることです。
貢献性の高い事業であっても、収益につながらなければ、ステークホルダーの理解も得られず、経営を存続することができません。ブランドパーパスと収益構造を矛盾させずに両立していくうえでは、両者の「シナジー」を生み出せるかどうかがポイントになります。
たとえばハイブリッドカーは、「ガソリン代が安くて静か」という商品特性と、「環境に優しい」という社会的価値が相乗効果を上げています。商品価値のうちに、消費者に対する直接的なベネフィットに加え、社会的な意義を組み入れることに成功しているのです。
このようなシナジーを実現するためには、「商品・サービスそのものに対するニーズ」と、「消費活動を通じて達成される社会的価値に対するニーズ」を総合的に分析することが求められます。さらに、それらの両面的なニーズに対する「答え」を、自社の商品・サービスによって提供していく視点が求められるでしょう。
パーパスを共有・実行できる体制
多種多様な情報発信の手段が用意されている現在では、社会的な立ち位置を表明すること自体は難しいことではなくなっています。企業のキャッチコピーや広告のカラー、SNS運用のスタンスなどを通じて、ブランドパーパスを明示することができるでしょう。
とはいえもちろん、打ち出したパーパスが実情に即したものでなければ、消費者や顧客からの信頼も失いかねません。とくに近年では、企業が掲げる理念と実態との乖離が問題として取り沙汰されるケースも散見されます。現実とかけ離れたブランディングが原因となり、かえって信用が失墜してしまうことも考えられるのです。
企業のパーパスを現実に落とし込んでいくには、まず「組織のメンバーへの浸透」が必須になります。そのパーパスを実際に社内で共有し、メンバーの行動の軸とすることなしに、パーパスの実現はありません。それぞれが自身の労働に社会的意義を見出し、その達成を思考や行動の焦点に据えられるよう、「そのパーパスの達成に寄与することが、個々のメンバーにどのような意味を与えるか」といった部分を明確にすることが求められます。
ブランドパーパスを実現した企業の事例
業種や業態により、企業の掲げるブランドパーパスはさまざまであり、またそれを実現する方法も多岐にわたります。ここでは、社会問題に対する明確なスタンスを打ち出しながら、それをブランディングとして成功させている企業の事例を紹介します。
「環境性能」と「使い心地」の両立:オールバーズ
サンフランシスコ発のD2Cのシューズブランド「オールバーズ(Allbirds)」は、持続可能性への注力を特徴とする企業として支持を集めており、2021年10月現在NASDAQ上場を申請している成長株です。
同社のブランドパーパスは明確であり、シューズに用いる「素材」を通じた「環境問題への取り組み」が前面に打ち出されています。一般に、靴作りにおいてはプラスチックやゴムなどの化学繊維が多く用いられますが、同社はメリノウールやサトウキビ、ユーカリといった自然素材を基調にしたラインナップを展開しているのです。
(参照:オールバーズ「素材について」)
履き心地の評価も高く、アメリカ合衆国のTime誌において「世界一快適な靴」と評されるなど、環境性能と快適性能を両立した靴として地位を築きつつあります。Z世代やミレニアル世代を中心にファンも多く、ESG関連の投資家からの注目度も高い企業です。
「環境保護」というパーパスは、一見すると企業活動とは相性がよくないように映りますが、オールバーズはその靴作りにおいて、消費者にとっての「実用性」というベネフィットを実現することで、相乗効果を生み出すことに成功しています。
「安全」と「環境」に対する独自の解釈:マツダ株式会社
広島県の自動車メーカー「マツダ株式会社」は、かつては廉価なラインナップを特徴としていましたが、近年、安全性能や環境性能に対する独自の取り組みや、内外装デザインの刷新によりブランドイメージを大きく変容させました。
ブランディングにおいて特徴的なのは、一種の「ニッチ戦略」です。自社の経営規模や顧客層をふまえ、「シェア2%を確実に取りにいく」という経営戦略を敢行。「Zoom-Zoom(車が走り出す音を意味する)」や「Be a driver.」といったコピーに見られるように、「運転手主体」の車作りを打ち出し、「運転を楽しみたい」というユーザーに訴求することをブランドパーパスの軸に据えています。
「運転を楽しむ」ことは、「環境問題」や場合によっては「自動車事故」といった社会問題と相反するイメージがあるかもしれません。ところが同社は、まず環境の面で、国内他社には例の少ない「クリーンディーゼル」中心のラインナップを展開し、環境負荷の軽減と運転感覚の向上を両立しています。
安全性能の面でも、国内基準よりも厳しい衝突安全性検査を独自に実施し、業界において高い評価を得ています。また適切な運転操作を可能にするシートポジションの追求など、「人間を中心に考える安全性」を理念として打ち出しており、他社との差別化に成功している点も多いです。
車作りにおける哲学を、独自の観点から「安全性」や「環境」といった大きな問題へと押し広げることで、「楽しみながらも、安全に、環境に優しく」という形でのブランドパーパスを実現しています。
(参照:マツダ株式会社)
「環境」から「人権」まで幅広い取り組み:ユニリーバ
ユニリーバ(Unilever plc)は、ロンドンに本拠を置く生活消費財のメーカーであり、持続可能性に対する取り組みで業界をリードする存在として知られています。
日本法人においても、「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」というブランドパーパスが掲げられており、2010年から「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(USLP)」という環境配慮型の成長戦略が導入されました。
具体的な取り組みとしては、事業所における再生可能エネルギーへの積極的移行や、プラスチック排出量の削減、生態系に配慮したサプライチェーンの確保など、環境問題へのコミットが多方面からなされています。さらに、健康的な食生活への貢献といった観点も重視しており、人々の日常に密着した企業ならではの姿勢が随所に見られます。
サステナビリティを意識した取り組みは、社内人事においても顕著です。働く時間と場所を自由に決められる制度の導入や、性自認・性的指向にもとづく差別を受けた場合のホットラインの設置、同性パートナーを配偶者と等しく扱う休暇や祝い金の制度など、多様な生き方を選ぶ権利を柔軟に認め、推進しています。
人々の健康や暮らしに関わる企業として、数多くの社会的責務に向き合いながら、信頼性を高めている模範的事例といえるでしょう。
(参照:ユニリーバ・ジャパン「地球と社会」)
まとめ
社会問題が広く共有されるようになった現在、「自社が社会に提供する価値」を明確に打ち出し、それに則った経営を推進する「パーパス・ドリブン」なあり方は、これからのブランディングのスタンダードになっていくと考えられます。
これからさらに多くの企業が社会的なパーパスを表明していくと予想されますが、パーパスと実情が乖離してしまえば、かえって企業への不信感が募ることになるでしょう。さまざまな問題に対して社会的スタンスを示すにあたっては、「その問題と自社との関連性」を曖昧にせず、「自社の事業がどのように問題に関わるのか」を具体的に示さなくてはいけません。
パーパスを具体化するうえで必要になるのは、まず自社の商品やサービスの性格を客観的に分析し、「市場における位置づけ」を明確化することです。消費者に対して具体的なメリットを示すうえでも、差別化のポイントを自社で見定めておかなければなりません。
加えて、「社会」という大きな視点に立ったときに、自社の商品やサービスがどのような意義を持つのかを定義しなおす必要があります。「社会的背景と自社の動機、取り組み内容」をめぐるストーリーに一本の軸を通し、統一されたパーパスを掲げていくことが求められるでしょう。
「ブランドパーパス」という観点を経営に活かすには、社会的な視野と経営的な視点の両方が必要になります。パーパスと利潤を相反するものと捉えるのではなく、両者を相乗効果につなげていこうとする視点が、ブランディング成功の鍵になるでしょう。
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