日々に「ポジティブな意思決定」を。株式会社DROBE代表 山敷守さんにインタビュー
株式会社DROBEとは、同名のパーソナルスタイリングサービスを提供する企業。同サービスは3年目に突入し(2022年3月時点)、4月1日には創業4年目を迎えようとしています。
AIテクノロジーと実績を持ったスタイリストのセンスを掛け合わせ、お客さま一人ひとりにスタイリングした商品を定期的にお届けすることが特徴。
本リリース(2020年3月)以前のベータ版の時点で、既に1万人近くの利用者を抱えていたという好調なスタートダッシュからその後、コロナ禍をものともせず勢いを増す、その柔軟な経営方針や思考をCEOの山敷守さんにお聞きしました。
こちらの記事は2020年3月に行った取材内容(未公開)と2022年3月に追加取材した内容を合わせて制作したものです。
目次
パーソナルスタイリングサービス「DROBE」とは
DROBEとは、AIテクノロジーとプロのスタイリストがお客さまそれぞれに合わせてスタイリングした商品を定期的にお届けする新パーソナルスタイリングサービスです。リリースは2019年9月(本リリースは2020年3月)。
好みのテイストや年齢、ライフスタイルといった情報をもとに、一人ひとりに寄り添って組まれたコーディネートは、受け取る前に確認し、要望を伝えることもできます。
商品はもちろんすべて購入可能で、あるいは気に入らない場合は返品することもできるため、回を重ねるごとにお客さまの好みへの理解度が深まり、スタイリストとの関係性も構築されるという、webを活用していながら人と人とのつながりが顕著に表れる仕組み。
トップス、ボトムス、そしてバッグやシューズといった小物を含めた5点の商品と、その着こなし方の参考になる「スタイリングカルテ」が定期的に届く「セレクトBOX」がスタンダードなプランですが、登録料・利用料などが不要で、好きなテイストや体型などをもとにレコメンドされた商品を1点ずつ選べる「ストア」など、お客さまのニーズやライフスタイルの変化などに応じて、柔軟にサービスを展開し続けています。
2周年を経て、その後
―2周年おめでとうございます!
株式会社DROBE CEO 山敷守さん(以下、山敷さん):ありがとうございます!
去年の9月に2周年を迎え、今度は4月に会社も立ち上げてから3年目が終わるので、着々と年を重ねております。
―特設サイトも拝見しました。
掲載されていたお客さまからのお手紙を見て、AIというテクノロジーを利用されていながら、やはりコアに重視されているのは人と人とのつながりという部分なんだなぁというのが改めて伝わりました。
山敷さん:ありがとうございます。
まさにAIはあくまで人のサポートツールというのが弊社のコンセプトなんですが、今回は本当にたくさんのお手紙をいただいて、まさしく人と人とのつながりができてきたんだ、とうれしかったです。
―もともとDROBEは山敷さんが前職のBCG Digital Venturesにいらっしゃった2017年から三越伊勢丹ホールディングス(以下、三越伊勢丹)と協働で取り組まれていたプロジェクトですよね。
山敷さん:はい。そのときにお客さまから多くの反響をいただいて、事業を大きくしていこうと2019年4月にこの会社を立ち上げました。
そのときは「試作品」みたいな状態だったので、利益度外視だったのですが、ちゃんと事業として成功させるために、最初は出資もしていただいている三越伊勢丹の方と一緒にアパレルブランドへ話をしに行って商品を卸していただきましたね。
―リリース当時と比べて飛躍的に取り扱いブランドが増えましたよね。
山敷さん:そうですね、2年間の変化としてはたぶんそこが一番大きくて、去年からユナイテッドアローズさんやナノ・ユニバースさんにもご参画いただいて、かなり充実してきたと思うので、今は正直、新規ブランドの獲得はそんなにプライオリティーが高くない状況になりました。
―1回目の取材時にはサイズを拡充していくと仰っていましたが、そこもかなり充実してきたのではないでしょうか?
山敷さん:そうですね、当初はいわゆるイレギュラーサイズといわれるようなXL以上・XS以下をお求めのお客さまは残念ながらお断りをせざるをえなかったんですが、今はその部分もご提供いただけるブランドさんに入っていただいたので、そこも2年間の変化のひとつですね。
―本リリースしたばかりの2020年3月時点では、事前アンケートで想定されたとおり、ユーザーは30~40代が8割とお聞きしましたが、その後変化はありますか?
山敷さん:引き続き30代は多めではあるんですけど、今は20代も増えました。
会員数が10万人という規模感になり、コアターゲットとさせていただいていた30代は今30%ちょっとくらいで、幅広い年代の方にお使いいただけるようになりましたね。
―以前は「ファッションは好きだけど今の自分に似合うものを見つけるのが難しい」という方を想定していたとお伺いしましたが、その部分は変わっていないですか?
山敷さん:そうですね、そこは変わっていないです。
たとえば「自分に似合う服がわからない」という悩みが多くの方々に共通していても、それが年齢によるものなのか、今よりもっとお洒落になりたいという思いによるものなのか、時間がなくて選べないというものなのか、そういった背景によって求められる形態自体が変わってきちゃうんです。
そこを、提案の手法やランディングページの見せ方、あとは広告を出すよりもメディアのような形で記事を書かせていただいたりもしているんですが、そういった、集客よりも我々のサービスを説明する、一種のブランディングに力を入れていくことによって、「本来はファッションが好きなんだけど、自分に似合う服を見つけるのが苦手」という方に広く使っていただけるようになりましたね。
―なるほど。たしかにコロナ禍で働き方が変わったり、あるいはライフステージが変わっていったりするなかで自身の好みがなんなのかわからなくなることはあると思うので、プロのスタイリストにご提案されるとコーディネートの幅が広がると思います。
山敷さん:そうですね、ただやっぱりどうしても得手不得手というのがあるので、お客さまに合ったスタイリストがつくように毎回考えてアサインするようにしています。
小柄な方には小柄なスタイリストのほうが気持ちがわかる部分も大きいでしょうし、ほかにもたとえば育児中の方には子育て経験のあるスタイリストのほうが場面ごとに動きやすい服を捉えられると思うので……。
―服をご提案される際にAIも活用されていますが、スタイリストとAIそれぞれの領域は区分されているのでしょうか?
山敷さん:結果的にはスタイリストとAIが共同してスタイリングすることを考えていますね。
正直スタイリスト一人ひとりがすべてのブランド、商品を網羅することはできないので、お客さまごとにマッチ度の高いものをAIで一定数に絞り込んだうえで、スタイリストが選ぶというプランです。
よく「スタイリストはその内いらなくなるんですか?」ということを聞かれるんですが、やっぱりどこまでいっても必要ですね。
AIはデータを活用するのは得意ですけど、トレンドのような実体がなかったり、日々変わっていったりするものに関しては見ることができないので、それぞれ得意分野を伸ばしていってもらっている感じです。
第一の目標達成をしてもまだ「1/100」
―AIといえばマイクロソフト コーポレーション提供のスタートアップ支援プログラム「Microsoft for Startups」に採択されましたが、やはり今後の技術発展につながる部分でしょうか?
山敷さん:そうですね。AIを作るとき、もちろん最初から本番環境で構築していくという方法もあるんですが、どちらかというとモデルを作って開発環境でいろいろ試していくという方法を取っているんですね。
そのときはコスト度外視で、AIのリソースを存分に使ってみて立ち上げる、といったことを行うので、GoogleやAmazonなど競合が強いなか、特に機械学習領域に積極的なMicrosoftのプログラムに入らせていただいたのは、やっぱり助かっていますね。
―新しい取り組みというと、選択した期間中はスタイリング料が無料で何度でも利用できる「セレクトBOXパス」も導入されましたね。
山敷さん:お客さまが増えてきて、いろんな使われ方をしていただいているなかで、通常1回2,900円(税抜)のスタイリング料をいただいているんですが、それだとなかなかお金の面で負担に感じていた方とか、継続しづらい方もいらっしゃったのかなと思うので、より使いやすくなったと思っています。
我々も、使っていただければ使っていただけるほどうれしいので、win-winの形で拡大していけるんじゃないかなと思ってリリースしてみました。
―それだけ継続利用される方が多いということですよね。
山敷さん:そうですね、現時点で継続のお客様は5割前後を占めていて、来年には7割程度になるんじゃないかと思います。
サービスの特性としても、1回試したらそのまま続けていただけるという傾向があるので、まずは新規の方に知っていただくというところに力を入れていますね。
やはり最初にご利用いただくまでが大変なので。
なんというか、スタイリストに服を選んでもらう体験って、なかなか経験のないことだと思うので、脳内でイメージが沸きにくいんだと思うんです。
でも1回使っていただくと、「あ、スタイリストさんに選んでもらうと、自分では思いもしなかった服がくるんだ」と実感していただける……、なので今はこのサービスについて広く伝えていくという努力をしていますね。
昨年12月ごろからPRに力を入れて、プレスリリースを増やしているんですが、それもその一環といえます。
―本リリースされたばかりのころは会員数を10万人にするというのを第一の目標に掲げられていましたが、現在の目標も会員数に関連する部分でしょうか?
山敷さん:やっぱり「会員数増加」というのは意識していますね。
もちろん売上も考えないといけないんですが、使っていただける方を増やしたいので、10万人に達したときも「よかったね!」というより、今後100万人、1千万人に拡大させていきたいという気持ちのほうが大きかったです。
1千万人を目指すとまだ1/100なんですよね。
―1千万人規模となると、かなり大きなビジネスになりますね。
山敷さん:はい(笑)。
ともすると我々の事業って、ちょっとニッチなサービスと思われることもあるんですけど、実際に使っていただいたお客さまの感覚だと「スタイリング付きのショッピング」みたいな面が強いと感じるんです。
服を買うときの選択肢としてECサイト、実店舗、そしてDROBEという風に捉えていただければ……。
まぁこういった買い方が合わない人もいると思うんですけど、それでもいま女性だけで5,6千万人いるなかで、将来的には2千万人くらいの方に使っていただけるようにしたいなと思っています。
ポジティブに意思決定できる環境へ
―なるほど、ちなみにDROBEは女性向けのイメージが強いですが、男性向けのサービス展開はされないんでしょうか?
山敷さん:やりたいなとは思っています。
ただ、まだ男性のほうが女性と比べるとニーズが少ないので、タイミングを見計らっている段階ですね。
―たしかにメンズブランドのほうが少ないイメージもあります。
ところで話が変わるんですが、ネイルめっちゃかわいいですね!
山敷さん:よく気づきましたね!
今伸びてきちゃったんですけど……、男性でジェルネイルをすると言うと、ちょっと珍しがられます。
―まだ珍しいんですかね。
山敷さん:ケアする人は多いみたいなんですけど。
私の場合は昔ネイルをしていて、子どもが生まれてからしなくなってしまって、またやりたいなと思ったので今始めてみています。
―御社のビジョン(「すべての人がポジティブに意思決定し、自分を楽しめる世界」)を体現されているみたいだなって思いました。
「ポジティブに意思決定」っていうところがとても素敵ですよね。
山敷さん:ありがとうございます。
行っているのはファッション事業ではありますが、お客さまをお洒落にしたいというわけではないよね、という思いで決めました。
だれかが作った「お洒落」という正解にはめていく、という形はファッション業界の既存の構造としてあったかもしれないですけど、我々はそれを再生産したいわけではなく、消極的に「私はこれでいいの」という気持ちで服を選ぶのではなく、ポジティブに自分らしく意思決定をするというところを最大化したい、と結構長い間議論をして、こんな形になりました(笑)。
―女性らしく、男性らしく、という性別における線引きは、身につけるものだけでなく社会において未だ多く見られると思うんですけど、そんななか「自分はこれが好き」と自身が楽しめる恰好を選べるというのは、それこそが本来のファッションの醍醐味なんじゃないかと思いました。
山敷さん:それも2年間でアップデートされた部分なのかもしれないです。
いろんなブランドにご参画いただいたところが大きいんですけど、やっぱりひとつの「これがお洒落」という要素が全員に共有されているという実感があまりなくて、それぞれが頭の中で考えて、自分たちなりに前向きに意思決定していればそれこそがお洒落だよねって思うので、それを自分たちらしい言葉で表現するということになりました。
―服選びはもちろんですけど、毎日意思決定の連続で生きていますもんね。
それが自分なりの考えでポジティブに選択できたらなによりだと思います。
山敷さん:山本耀司さんが以前「一着の服を選ぶってことは1つの生活を選ぶってこと」と仰っていて(※下記参照)、そこまで強い認識ではないにしても、選んだ服によって、その方の日々の生活とか仕事とか、ご友人、同僚のコミュニケーションとかが変わってくるかなと思っている部分はあるので、「意思決定」という言葉はちょっと硬いんじゃないかって意見もあったんですけど、いろんな意思決定をDROBEがファッション面で支えられたらいいなと……。
最近の女性たちは世界中、非常にダサくなっていると思う。一日に何回も、ファストファッションで買い物するなんて、少しは疑問持てよ、と言いたい。「一着の服を選ぶってことは1つの生活を選ぶってことだぞ」って。だから俺は、そういったことに疑問を持つ女性のために作っている。
『WWDジャパン(2016年)』内「23歳の記者から山本耀司へ37の質問」より、だれのためにデザインをしているか問われて。
―私も服選びを失敗するとその日一日テンションが上がらないので、ファッションとプライベート、仕事の因果関係は弱くないと思います。
服選びにおける意思決定という点で思い出したんですが、ちょうど先ほど編集部内で「採用面接の際にスーツを着るか」と話題になりました。
もちろん山敷さんは採用面接に行かれることはないと思うんですが、もし今行くとしたらどういう恰好を選びますか?
山敷さん:あ、絶対スーツは着ないですね(笑)。
もともと新卒で入社したDeNAはみんなカジュアルな恰好の会社だったんですが、次のBCGがプロジェクトによるんですが、基本的に黒に近い色のスーツに白シャツ、紺のネクタイといった格好が固定だったので、もうそういう働き方はいいかなって思っています。
―たしかに男性はスーツと決められている会社は多いですね。
そう考えると、先ほど男性のニーズが少ないって仰っていましたが、そもそも女性のほうが選べる服の幅が広いかもしれないですね。
山敷さん:そうですね、女性のほうが自由度が高くて、その反面難しさもあるんだろうなと思いますね。
男性だときれいめのセットアップに白のTシャツを合わせるだけでもお洒落に見えるので。
あと「オフィスカジュアル」と呼ばれるファッションも男性のほうが制約が多い印象を受けますね。
―たしかにそのイメージはありますね。
でも制約があるのを大変だと捉える人がいる一方で、選択肢が多いのを大変だと捉える人もいますよね。
山敷さん:そうですね、難しさの裏側に自由があるってことなので、その悩みの種がDROBEによって楽しいものに変わってくれたらうれしいですね。
「人」をきっかけに事業を展開する柔軟性
―ミッションも以前のもの(「ファッションから、日々を楽しもう。」)から変わりましたね。(現在は「ヒトとモノの出会いをデザインする」)
山敷さん:はい、変えました。
将来的にはこの婦人服パーソナルスタイリング事業以外もやっていくつもりなので、目指していく形、アプローチ方法を変えるということになりました。
―事業など表に出る部分のミッションでありながら、組織内のミッションのようにも見えて、サービスもビジネスも内部のことも、垣根なく包括して表現されているような印象を受けました。
山敷さん:まさに。会社のあり方はすごく考えましたね。
「デザインする」と表現したのはつまり、まだできていない部分があるからもうちょっとちゃんとデザインすべきだよね、という意味合いを込めているんですけど、当たり前とされているものをそのまま活用するよりも、やっぱり自分たちの頭で考えて、設計して、実装していく、その一連を「デザインする」と表していて、組織に対してはそうありたいと思っています。
―「自分の頭で考える」ということを重要視しているのが伺えます。
前回の取材時には「自分の頭で考えられて、自分で責任をとれる人間は1,000人に1人もいないと思っている」と仰るのと同時に「そういう人を10代でも60代でも、年齢も職種も問わず幅広く見つけて、その人たちに合わせて事業を変容させてもいい」とも話されていました。
事業内容に合った人を探すのではなく、見つけた人をきっかけに事業を展開していくというのは柔軟ですよね。
山敷さん:この会社を作ったときも、先に「自分たちの手で人々に使われるサービスを作りたい」っていうざっくりとした方向性の合った4人の経営陣が決まって、そこから始まったんです。
口火を切ったのは自分でしたが、全員が全員それに乗ってくれなかったら今やっていなかったかもしれない……(笑)。
いかにサービス内容がよくても、人がいないと作れないという気持ちは強いですね。
特にデジタルサービスにおいては「アイデアは無価値」だといわれがちで、我々のサービスについてもユニークなものだとは思っていないんですよ。
でも、この角度で考えたときにこういったやり方をしたらいいんじゃないかっていうパズルをいくつか組み合わせた結果が今なので、そうやって実際に動ける人たちを集めるのが大事だと思っています。
―多様性を重視する企業は増えていると思いますが、そこまで人を優先させる企業はなかなかないと思います。
山敷さん:もともと我々の場合、大別すると、DeNA出身でweb開発やデータ分析に携わっていた私みたいな、いわゆるインターネット系と、スタイリストや伊勢丹出身の方のようなファッション系のバックグラウンドを持ったメンバーがいて、当初から混ざり合っていたんですよね。
インターネット的なアプローチだけでこのサービスを立ち上げたいとは思わなかったし、でもファッション的なアプローチだけというのもしたくない……、その掛け合わせによって新しいものが生まれてくるというのは最初から感じていたことだったので、これからまた別の出自やカルチャーを持ったメンバーが入ってくると、会社のカルチャーも変わってくるし、事業のあり方も変わってくると思うんです。
全員がプロフェッショナルであれば上下関係は生まれない
―人を大事にされるという点では、国際女性デーに向けた社会発信企画『#キャリアとライフはトレードオフじゃない(※2)』に参画されるなど、社外への発信もされていますね。
※2:DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)推進の現況を定量的に可視化・公開し、性別等の属性にかかわらずあらゆる人がパフォーマンスを発揮できる組織を増やすことを目指す社会発信企画 |
山敷さん:ちょうど今日(取材日は2022年3月9日)、お昼に登壇してきました。
―そうだったんですね。御社の場合、もともとワークライフバランスを意識されている会社だと見受けるんですが、特に先行きが不透明な今のVUCA時代に適した働き方について、どう捉えていますか?
山敷さん:そうですね、もともとスタイリストさんはお子さまを育てられている方が多いというのもあり、フルリモートだったんですね。
加えて、本社の正社員が今26人くらいいるんですけど、そのメンバーも今はフルリモートになりました。
―サービス初期の当初から、実際に北海道や福岡からリモートワークで働いているスタイリストさんがいらっしゃるとお聞きしました。
山敷さん:我々の会社で働く意味のある方に入ってほしいんですよね。
たとえばずっと東京のアパレル企業でバリバリ働いていた方が結婚されて、ご家族のご都合で地方に戻ることになったけれど、そこには働き口がない、ということもあると思うんですが、我々の会社であればリモートワークで仕事をしていただけるので、お互いにwin-winになれそうだなと思うんです。
―「場所を選ばずに働く」というスキルは今の時代に必要ですね。
山敷さん:そうですね、あとは入社の際に全員にどうなりたいのかを尋ねていて、そのうえで会社と個人、お互いにメリットを築きましょうとお話しさせていただいています。
うちの会社で働くメンバーには、将来自分のブランドを持ちたいという人やスタイリストとして有名になりたいという人もいるんですけど、そういう人たちにはこの会社を使ってください、一緒に使っていきましょうって話しているんです。
たとえばブランドを作りたいなら、ファッションに関する部分だけではなく、自分で一から立ち上げる際に必要なデジタルマーケティングや経営に近いような部分をやってもいいし、スタイリストとして成功したいならDROBEのスタイリストとして名前を出してどんどんメディアに出てほしい、と伝えています。
―それは、ゆくゆく独立してしまってもいいということですか?
山敷さん:本人が望む働き方がDROBEで包含できないなら、全然問題ないと思います。
もちろん我々の組織の中で専業で働いてくださってもいいですし、副業でもいいですし、本人の意思や能力に見合わない環境で働くという不健全な状況を避けたいという感じです。
アパレル販売職の方はなかなか本部職に就けないという話も聞きますが、うちの組織の場合は、本人の意思と実力があればリーダーにも経営陣にもなってほしいと考えています。
「責任と矜持」というカルチャーを掲げて、「会社にいるみなさんはプロフェッショナルとして扱います」ということを伝えているんです。
たとえば、フルリモートで働くことで日中お子さまのお迎えや病院付き添いも自由にできますし、そのままお風呂に入れて寝かしつけて、その後から仕事をする、といったこともできるようになってきたので、ワークの柔軟性が上がったというのは感じますね。
会社の役割があって、個人にも役割があって、その求められた役割を果たしている間はなにをやってもいいよね、と考えているので、全員がプロフェッショナルであれば雇用側と使用側というような関係性になるのは違うと思うんですよね。
「フラット以上」の環境を目指して
―全員がプロフェッショナルとなると、まさしく平等でフラットな社風ですね。
山敷さん:基本的には上司部下のような関係性は存在しないですね。
ただ、ちょっとこの話はするべきか悩むんですが(笑)、私はフラットにするだけでは不十分だと思っているんです。
たとえばスタイリストだと、だれよりも直接お客さまと接していてシステムやスタイリング、会社に対して「もっとこうしたほうがいい」という意見を持っていると思うので、どんどん言ってほしいと伝えているんですが、なかなか聞くことがないんですよね。
なので、もっと言ってもらえる場を作るというのをミッションにしています。
自分で見られることにも限界があるので、まずはチームの力を強めるようにしました。
経営者が私以外に4人いるので、それぞれエンジニア・ファッション・プロダクト・コーポレートのチーム内でしっかりミーティングを行うようにしています。
いくらフラットだといっても、一従業員が社長や経営陣に直接意見を言うのはちょっとハードルが高いと思いますが、チームの中でならもっと言いやすくなるんじゃないかと思うので、そこは2年間で生まれたポジティブな変化ですね。
一方でフルリモートの弊害のようなものも感じていて、日常的に接点を持たない状態だと、わざわざ発信するほどでもないという小さな意思表示みたいなものをキャッチできなくて、どう吸い上げるか、あるいは吸い上げなくても会社として回る体制にするのか、今まだ模索している感じです。
―コロナ禍で音声SNSが注目されるようになりましたが、作業中に気軽に話しかけられるという環境は働くうえで重要かもしれないですね。
山敷さん:端的な表現をしてしまうと、自分で決めたり自分で考えられるシニアな現場だけであれば、フルリモートで成り立つと思うんですけど、ジュニアのメンバーがいたり、今はまだITリテラシーがそこまで高くないという方が入ってきたりしたときに、ちょっと苦労されるなぁという印象を受けますね。
ただ結構意思を持ってフルリモートにしていきたいと考えているんです。
そうすることで、ワーキングペアレンツだったり、ファッション業界をプライベートな理由で諦めなきゃいけなくなった方だったり、いろんな方がDROBEに入ってきてくれると思うので、フルリモートを前提に、どう上手くやっていくかという努力をしていこうと思っています。
企業として同一性を持たないという強み
―今の御社の経営上の強みはなんだと思われますか?
山敷さん:たぶんこのフェーズにしては経営者が多いんですね。
私を含め5人いて、それぞれが知見を持ったプロフェッショナルであること、それは強みだと思います。
反面、弱みになるところでもあるんですけど。
私がワンマンでドライブしていくという要素はDROBEには全然なくて、コーポレート、プロダクト、ファッション、エンジニアリング、いろんな観点で意思決定をしていっているんですね。
それによって短期的な勢いやスピードが出ないこともあるんですけど、中長期的に見ると、結果としてはしっかりステップを刻めているし、多くの人を包含できるような形になっている……。
たとえば私が一人で意思決定してしまうと、私っぽい考え方をするメンバーばっかりになってしまったり、企業としての同一性が高まってしまったりすると思うんです。
それは短期のフェーズではいいかもしれないけど、中長期的に見るとやっぱり弱さにつながっちゃうのかなと思うので、だから多様な考え方を持ちつつ会社や事業をちゃんと成長させているというのは、経営上の強みなのかなと思っています。
―やっぱりキーワードになるのは「ダイバーシティ」なんですね。
山敷さん:でも経営に関してはまだまだ小さなダイバーシティですけどね。
今、経営陣がみんな男性なんですよね。
僕はあまり性別は関係ないと思っていて、今までやってきたキャリアやビジネス的な成功という面で集まったメンバーなんですが、そこにこれから全然違う経歴の人が入ってくると、もっと奥行きのある意思決定につながっていくのかなと考えているので、それは目指していきたいですね。
いい人に出会えたという「運」
―そうなると、より人の力というのが色濃く出そうですね。
少し脱線するんですが、山敷さんは会社を立ち上げたり経営したりするうえで「努力」「運」「才能」、どの力が一番強いと思われますか?
山敷さん:うーん……運はあると思いますね。
今一緒に働いているCOOの長井という者がいるんですが、DeNAで働いていたときの後輩、―彼が学生のときのインターンの受け入れ先だったので部下といえば部下ですかね―……なんです。
その後、就活中に別の大きな会社を辞退して入社してくれたので、彼に会えたっていうのとインターンの受け入れ先がたまたま自分だったというのは運が大きかったと思います。
―なるほど。実際その3つはいずれも持ち合わせているんじゃないかと思うんですが、そのうちのどれを答えるかはご自身の捉え方次第なので、人を大事にされている山敷さんはどれを選ぶのかお聞きしてみました。
山敷さん:たしかに。でもほかの経営陣が「才能です」って言い始めたらおもしろいですね(笑)。
―でも「いい人を引き寄せる力」は運ではなく才能とも捉えられそうですよ。
山敷さん:ちょっと聞いてみますね(笑)。
才能というと、私の場合、まったく緊張しないです。
緊張するとやっぱり普段出せる力も半減すると思うんですけど、たとえばDeNAにいたころに新規事業の記者発表会で、300人くらいのメディアの方々と数十台のTVカメラの前でプレゼンしても普段どおりできたときは、自分でも適職だなと感じましたね。
―それはまさしく才能ですね。
緊張しないということはON/OFFの差もあまりないですか?
山敷さん:そうですね、でも子どもと一緒にいるときは完全OFFですね。
たまにオフィスにも連れてくるんですけど、一緒に遊び始めたりするとOFFになります。
―OFFにするために休みを作るというよりは、お子さまと接するとOFFになるという感じなんですね。
山敷さん:サービスは毎日稼働しているので、それを運営している身としては土日もなにかあればすぐに出社できるように、その辺りはシームレスにしておきたいんですよね。
でもコロナで自身もリモート中心の働き方になったので、ワークとライフのバランスは非常にとりやすくなりました。
休日になにか対応が必要になっても、公園からオンラインで入ることもできますし。
―ON/OFFがないと聞くと疲れてしまいそうな気がしますが、実際に一日のスケジュールの中で子育てと仕事を両立されているスタッフの方がいらっしゃるように、ライフとワークを分けるのではなくライフの中にワークがある、というのが今の時代に合った働き方かもしれませんね。
個性が重要視される時代に求められる・求めるべきもの
縦の関係性ではなく、一人ひとりを見つめることで個々に責任感と一体感を築いている株式会社DROBE。フラットであろうとする会社は少なくないですが、その次のステージを目指そうとしている会社はなかなかないのではないでしょうか。
「ダイバーシティ&インクルージョン」が大きなキーワードになっている現代、組織の中の個人とどう向き合うべきなのか、今までの文化が色濃く残る企業においては今一度見つめ直す必要がありそうです。
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