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株式会社ネオマーケティング 代表取締役社長 橋本光伸さん

マーケティングリサーチとは?株式会社ネオマーケティング代表に聞く、その重要性

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新商品やサービスを開発する際にマーケティングリサーチからPRまで一気通貫で担っている株式会社ネオマーケティング。独自のフレームワークを作り、研究も行う同社の代表取締役社長に、そのビジネス哲学をインタビューしました。

株式会社ネオマーケティングとは

株式会社ネオマーケティングは、2000年の創業から移り変わりの激しい消費活動の変化を見つめ続け、マーケティングリサーチやブランディング、PRといった領域で、生活者のニーズに合った商品・サービス開発のサポートを行ってきた企業。

独自の調査分析によって得られた生活者のインサイト(※)をもとに、今どういったユーザーに、どういった商品が求められていて、どのようにアプローチすれば認知され、購買行動を引き起こすことができるのか、といったノウハウを数多く編み出しており、「生活者起点のマーケティング支援」をコンセプトに、顧客に寄り添いながらサービス提供しています。

※ インサイト:消費者の行動などの背景にある潜在的な欲求のこと。これが要因となり、消費行動を引き起こすことも多いため、新商品の開発や持続的な販売促進など、マーケティングにおけるあらゆる面で注目されている。

当メディアでもおすすめのネットリサーチ会社として、以前からご紹介しており、今回はそのデータ収集力、そして分析力の秘訣について、またマーケティングリサーチの重要性についてお伺いしました。

マーケティングリサーチとは

株式会社ネオマーケティング 代表取締役社長 橋本光伸さん
(株式会社ネオマーケティング 代表取締役社長 橋本光伸さん)

―御社は業界随一の豊富なリサーチ手法とノウハウをお持ちですが、「マーケティングリサーチ」というものについて、改めてご説明をお願いできますか?

株式会社ネオマーケティング 代表取締役社長 橋本光伸さん(以下、橋本さん):ネオマーケティングでは企業のマーケティング支援がメインの事業なんですけど、たとえばメーカーさんってやっぱり商品開発が大事で、売れるものを作りたいって思われますよね。

どういったターゲットに対して、どういった商品をどういったパッケージで、どういったチャネルで、どのくらいの価格帯で販売するべきかっていうのをいつも考えられていると思います。

実際にそのタイミングでご相談をいただく機会が多いんですが、そこで最初に行うのがマーケティングリサーチなんですね。

大きく分けて定量調査と定性調査というものがあり、定量調査では、たとえば1,000~2,000のサンプル(調査対象者)のアンケートを取得して、クロス集計をして、属性ごとに分析して、「この商品であればこういった層のターゲットに支持されるでしょう」といったことを見つけます。

定性調査は、調査対象者のライフスタイルなどを深掘りできるようなデプスインタビュー(※2)という手法を使い、人間の深層心理にあるものを突き詰めて、そこから商品をヒットにつなげていくというものです。

※2 デプスインタビュー:対象者とモデレーターが1対1で実施する調査方法で、「パーソナルインタビュー」ともいわれる。ターゲットの商品やサービスの選択方法やその購買理由など、生活に深く関わる部分を知ることができるため、商品開発やそのPR方法の方向性などを定める際に適している。

橋本さん:それで、商品のコンセプトがどういった層に刺さりやすいか、こういうパッケージだったら好感を持ってもらえるんじゃないか、このターゲット層だったら価格帯はこのくらいがいいんじゃないか、といったことを見つけていくんです。

その後、実際に商品が完成したら、それを多くの方に知ってもらって、買ってもらうためにプロモーションが必要になってくるじゃないですか。

ネオマーケティングはどういった商品がどういった方に支持されやすいのか、といったデータを持っているので、ターゲット層が普段どういう媒体を見ているか、どういうクリエイティブ、世界観に共感してくれそうか、どういう便益、ベネフィットを求めているのか、というのがわかるんですね。

マーケティングリサーチを行ったあとは、そういった情報をもとに広告のクリエイティブやコピーを考えたり、効果的なデジタルマーケティングの運用手法を開発したりするフェーズにシフトしていきます。

調査データをもとにプロモーション手法を提案して、そのあとは効果検証……と、一気通貫でサポートしていますね。

―ちなみにいま一番ご依頼の多い企業の業種はなんでしょうか?

橋本さん:製造業が中心ですね。
食品、飲料、家電、化粧品……、日用品とか、日常的に使用する消費財が多いです。
時代やニーズの変化に合わせてどんどん新しい商品を開発していかないといけない業界なんですよね。

―たしかに一度売ったら終わり、というような商品じゃないですもんね。
そうするとますます御社で深く調査分析されている「消費者の生活に寄り添ったデータ」というのが求められますね。

独自のフレームワーク「4K」

橋本光伸さん

―御社では独自のフレームワーク「4K」といったものを採用されていますが、その強みについてお話しいただけますか?

橋本さん:核心・開発・開拓・改善の4つの頭文字から「4K」と名づけているんですけど、まず「核心」というのは、消費者のインサイトを捉えるということです。

インサイトを発掘するための独自のメソッドがありまして、それを活用しながら、消費者自身も気づいていないような深層心理を発見します。
これが商品開発前の段階。

開発フェーズでは、先ほどお話ししたような定量調査、定性調査を駆使して企業を支援し、開拓フェーズでデータをもとにしたPR、デジタルマーケティング、広告の施策を実行支援します。

最後の改善フェーズでは、実際にそれが消費者に受け入れられたのか、改善できるポイントはどこか、あるいは、1回使っていただいたユーザーに長く使っていただけるようなカスタマーサクセスを促す施策を提案します。

これらはすべて、リサーチを行う部署、PRを行う部署、デジタルマーケティングの部署、といったかたちで、専門家の集まったチームそれぞれが連携しながら、都度プロジェクトチーム単位で行うんですね。

会社によっては、それぞれ別のところに外注するケースも少なくないと思うので、この体制は他社と特に違う部分かな、と思います。
一連の流れを一社ですべて行えるというのが強みです。

なぜマーケティングリサーチが大事なのか

橋本光伸さん

―調査、分析、提案と、インプットからアウトプットまで行われていますが、どの部分を一番重要視していますか?

橋本さん:やはり最初の商品開発、コンセプトを決める、ターゲットをちゃんと絞る、そういったところを特に大事にしていますね。

仮にマーケティングが上流工程と下流工程に分けられるとすれば、下流に進んだあとにリカバリーするのってすごく難しいんですよ。

「こういう商品を作ったんですけど、なんか売れないんですよね」っていうご相談もたまにいただくんですけど、既にモノができているので、そのあとのプロモーション戦略だけで今以上に売ろうとするのは無理があることもあるんです。

改善ポイントを調査して商品をリニューアルするということもできますが、もっと前の段階からしっかり分析して開発していくのがいいと思います。

―リニューアルする場合は、どういった部分から調査していくのでしょうか?

橋本さん:いろんなケースがありますね。
その商品が受け入れられていないんだとしたら、もちろん理由があると思うので、まずはそこから検証します。

そもそもターゲットにすべき層が違ったのか、価格が高かったのか、いろんな理由があるんですけど、商品はそのままでいいけど流通チャネルが合っていなかったという場合も結構ありますね。

今まではECで販売していたんだけど、実は店舗で直接接客して販売するほうが合っていたとか、スーパーマーケットには置いているけど、コンビニでは売っていなかったとか、いろんなケースがあるので、さまざまな角度から検証していくという感じですね。

求められるのはデータを見るセンス

橋本光伸さん

―素人目線の質問ですが、多くの企業のあらゆる課題と向き合っていて、答えが見えなくなることはないのでしょうか?

橋本さん:定量調査を行うとき、1,000~2,000サンプルのデータを集めるので、統計学的に有意な結論というのが出せるんですね。
なので、答えが出ないということはないです。

ただ、それをどう解釈して、どう意思決定に反映させていくかは企業ごとに違っていて、ノーム値(※3)もさまざまなんです。

※3 ノーム値:同じ手法で実施された調査によって抽出された基準値のこと。ノルム値ともいう。

この場合は、定量調査においてどのくらいの人たちが「買いたい」と示したら実際にその商品を販売開始する、といった企業ごとの基準点を指す。

橋本さん:さらにはネオマーケティングでもまた基準点を設けているので、実際どのくらいの人数に支持されたら販売するべきなのかは、我々も1社ごとに向き合って考えながらサポートしているという感じですね。

―企業が意思決定する際に重視すべき点などはありますか?

橋本さん:クライアントさんごとに意向があるので、ニッチな領域でコアなユーザーを獲得したいという方もいれば、とにかく幅広く受け入れられるものを作りたいという方もいて、それぞれの戦略によって変わりますね。

ただ、最初に仮説を立てて戦略を立てられていることが多いんですが、調査してみると、その仮説とはまったく違う結果が出るということも多いんです。

なので我々は客観的な立場で、「今回の調査結果からはこういうことがいえます。そのため、こういったことを提言します」というようなプロポーザルシートを作ってお渡しするようにしています。

それがないと、結局数字だけわかっても、それを意思決定に活かしきれず判断が難しいということもあると思うんですよね。

―データを見るセンスが重視される部分ですね。

橋本さん:そうですね。
リサーチャーという職種の人が分析していくんですけど、データだけを分析するんじゃなくて、クライアントさんの本質的な課題やニーズの裏のニーズ、内部事情、市場構造、そういったあらゆる背景をきちんと理解していないといい提言はできないですね。

会社を立ち上げたきっかけ

橋本光伸さん

―そもそもネオマーケティングという会社を立ち上げたきっかけはなんだったのでしょうか?

橋本さん:僕は大学を卒業してから新卒で広告代理店に入社したんですけど、テレビや新聞、雑誌、ラジオの広告枠を販売するという仕事に就きまして、そのときにマーケティング調査というものに出合ったんですね。

当時は「ビッグデータ」という言葉すらなかったんですけど、たとえばテレビの広告枠の営業の際には、クライアントさんに「この番組は、こういう属性で、こういう趣味嗜好があって、こういう世帯年収の人たちが多く観ている番組ですよ」というのをお伝えするんです。

「だから御社のこのブランドやこの商品にすごくマッチします」ということですね。

この「データに基づいて提案する」という仕事がすごく楽しかったんですけど、当時の業界の慣習としては「なるべくマージンが大きい枠を勧めてくるべき」「この媒体を優先して売るべき」といった風潮があったり、しかも調査結果から、テレビCMに多くの金額を投資するよりも効果的な別のアプローチ方法があることが明らかになっても、最適な提案ができなかったり……。

それで、調査結果をもとに、本質的にクライアントさんにとってベストな提案ができる会社を自分で作るしかない、と思って、1年と少し勤めたところで独立を決意しました。

創業から7年後の転機

―会社を立ち上げてから一番大変だったことはなんですか?

橋本さん:いやーやっぱり最初は大変でしたね。
クライアントさんもいなければ、お金もなければ、ノウハウもなければ、僕は地方出身で大学からこっちに来たので特に人脈もないという状況だったので、めちゃくちゃ苦労しました。

―軌道に乗りはじめたターニングポイントってありますか?

橋本さん:リソースはなにもなかったですけど、自分の信じるスタイルやこの仕事に対する信念をクライアントさんにきちんとお話ししていくっていう活動をしていました。

そうしていくうちに、思いに共感してくださる方や支持してくださる方が少しずつ増えてきて、そういう方たちからお仕事をもらってちゃんと気持ちに応える、ということをやっていたら、「若いけど本質的なことを言っているやつがいるんだよ」という感じでご紹介いただけたりして、軌道に乗りはじめました。

でもそれまでに数年かかっていて、転機になったのは2007年ですかね。
2000年に創業してずっと2,3人でやっていたんですけど、ちゃんとしたインターネット調査のインフラを作ろうということで、そこにお金を投資して、モニターを集めて、システムを組んで……、そういうプロダクトができたから、今度は営業マンを増やして組織化していこう、と動き出したのがそのくらいなんですよね。

―そのプロダクトというのは、先ほどおっしゃっていた定量調査のときに活用されるモニターのシステムですか?

橋本さん:そうです、iResearch(アイリサーチ)というサービスを構築して、内製化された調査のインフラをようやく持てたという感じですね。
今は60万人くらいの方にご登録いただいていて、提携モニターをふくめると2,000万人くらいですかね。
それが当社の資産です。

―その人数から情報を聞けるとなると、クライアントさんの考えるさまざまなペルソナに合致できそうですね。

橋本さん:そうですね。
まさしくいま話しているこの部屋でグループインタビューなどを行うんですけど、そこの扉を開けるとマジックミラーになっていて、向こう側から見えるようになっているんですよ。

隣の部屋からマジックミラー越しに見た様子
(隣の部屋からマジックミラー越しに見た様子)

クライアントさんがそばにいると、モニターさんは忖度して、いい感想しか言いにくくなってしまうと思うので、裏から僕たちと一緒に見るんですが、たまに厳しい意見が出るとちょっと気まずくなることもあります(笑)。

―それは気まずいですね(笑)。
でもそうやって、ヒトとモノを集めて組織づくりが進んでいったわけですね。

橋本さん:そうですね。
調査結果だけを提示してデータを納品しても、クライアントさんからしたら「それで結局私たちはなにをしたらいいの?」となってしまいかねません。

クライアントさんにとってもっとも重要なマーケティング施策やさまざまなプロセスも支援できるような会社にしていきたいと思い、必要なサービスを開発して、あるいはM&Aや事業譲受で強化して……、そんな感じで広げてきました。

業界の常識を破り、業態を変更

―事業を拡大させていくなかで、一番記憶に残っていることはなんでしょうか?

橋本さん:いいことも悪いこともたくさんありすぎて一番は決められないですが、クライアントさんから厳しく言われたことは特に記憶に残っていますね。

事業の転換点になったという意味では、昔ある社長さんに言われたことが一番ですかね。
そのときは、自分としてはいただいた依頼どおりにきちんと調査を行って、過不足ないデータを納品したんですけど、「我々は別に調査がしたいわけじゃないんだ」と言われてしまったんです。

「もっとモノが売れるようになったり、お客さまに来てもらえるようになったりしたいんだ」と。

それまで僕は要件を満たして、クライアントさんに対して真摯に調査をすれば認めてもらえると思っていたところがあったんですけど、「それじゃ全然役に立っていないんだ」と衝撃を受けて、そこからいろいろ考え方が変わりましたね。

―厳しいことを言われたから、というよりも、それをきっかけに次のステップに進めたからこそ記憶に残っているということですね。

橋本さん:まさにそんな感じですね。
調査業界のスタンダードな考え方として、基本的にデータを納品したら役割は終了で、そのあとの判断や意思決定はクライアントさん任せというようなことが主流だったと思います。

創業したときから自分自身もそこに問題意識を持っていて、さらにそこでクライアントさんからも直接言われて、より強く「やっぱり僕たちが変わらなきゃいけないんだ」っていう気持ちになりました。

そこから、調査結果を反映させたマーケティング施策を実行できる会社を目指し、少しずつサービスを増やしながら今のような仕組みに改革していったんです。

迷ったら「生活者起点」に回帰する

橋本光伸さん

―企業ごとに課題や目的も異なるし、消費者のニーズも移り変わっていくので、前回成功した手法がまた今回も流用できるというわけではないじゃないですか。

常に新しいアイデアが必要になってくると思うんですけど、そういうのを引き出すために行っている工夫などはありますか?

橋本さん:そうなんですよね、時代の流れも、人の意識も、購買行動、消費行動も、とにかく移り変わりが早いです。

ネオマーケティングは「生活者起点のマーケティング支援会社」というのを事業コンセプトに掲げていて、「迷ったときは生活者さんの目線に戻ろう」というのを基本にしています。

冒頭でお話しした、入口のマーケティング調査が大事だっていうところに戻ってしまうんですけど、必ずそのときの最新の情報、データを集めて、それをもとに戦略を考えて、クライアントさんの事業を成功させる提案をしていくということを心がけています。

―今だとたとえば、コロナが流行する前と後で、生活者さんの行動に大きな変化はありましたか?

橋本さん:いろいろありますけど、ひとつはEコマースが拡大したことじゃないですかね。

店頭で選んで買うというよりも、通販、特にECで買ったり、それとメディアもYouTubeなどのオンラインのものが主流になって、情報収集の経路も大きく変化しましたよね。

―「巣ごもり需要」は大きな話題になりましたもんね。
でも今は少しずつ行動の制限が緩和して、揺り戻し的に店舗で実際に購入体験するということも望まれているような気がします。

橋本さん:それは間違いなくありますね。
結局、人間の本質的な欲求って大きくは変わらないんだと思います。

だから起きている現象だけじゃなくて、それをちゃんと捉えることが大事なんですよね。
現象はデータを見ればわかるんですよ。

でもどうしてそういうことが起きたのか、その裏にある人間の本能や欲求、そういうものを掴んでいくことが大事なんだと思っています。

インサイトを捉えた具体的事例

橋本光伸さん

―実際にインサイトを捉えた実例でお話しできるものってありますか?

橋本さん:一般的な事例で良ければ、お話しできます。
たとえば洗濯用の洗剤って、以前は「洗いあがりの白さ」を強調して訴求していたんですけど、ある時期から「洗いあがりのにおい」に着目するようになったんです。

主婦の方のお宅に訪問して、実際に洗濯をする様子を最初から最後までプロセスを観察するとします。
そうしたら、洗濯物を洗濯機に入れて、回して、干して、そして最後に取り込むときに、みんな無意識ににおいを嗅いでいたんですよ。

―私も嗅いでいるかもしれないです……。

橋本さん:インサイトはそういう、「本人は気づいていないけど無意識でやっている行動」のなかに隠れている場合が多いです。

そこから一気にテレビCMも「洗いあがりの白さ」から「消臭」とか「部屋干しでもにおわない」とか、そういう訴求内容にがらっと変わりましたね。

ボトル缶コーヒーの台頭とインサイト

橋本さん:あとは、コーヒーのボトル缶もそうですね。
もともとはプルタブのついた缶コーヒーをもっと女性に飲んでほしい、というメーカーの要望があって、なんでそれが女性に選んでもらいにくいのか、というのを深掘りしていった例です。

そうしたらインサイトは3つありました。

まず、一度に飲みきれないということ。
もうひとつが、プルタブを開けるときに、ネイルを傷めてしまうのではないかと思ってしまうこと。
それと、ぐいっと顔を上げて飲んでいる姿を人に見られたくないということ。

それを全部解消させるために、メーカーはボトル缶を開発されました。
フタが閉められるので、その場で飲みきらなくても持ち歩けますし、開けるときに爪も傷めない。

さらに飲み口を広く設計することで、顔をあまり上げなくても、缶を少し傾けただけで中の液体が喉に入ってくるような仕様になりました。

それで女性向けに販売したら、今はむしろ男女問わず、それまでのプルタブの缶コーヒーよりも主流になっちゃいましたもんね。

―トレンドをリサーチするっていうよりも、リサーチしたことがトレンドになるっていうことも多そうですね。

橋本さん:そうなんです。
特に定性調査で行うような行動観察は、まさに無から有を生むためのリサーチなんですよね。

今の成熟縮小社会に合ったマーケティング方法とは

橋本光伸さん

―情報が飽和して、拡大成長してきた時代は終わり、成熟縮小社会にパラダイムシフトしているといわれていますが、そうなるとまたマーケティング手法にも変化が出てくると思います。
特に今までと大きく変わる点はどこだと思われますか?

橋本さん:ひと昔前までは、マスメディアで認知をとって、生産ラインを確保して、売り場の棚を押さえればOK、という側面もあったと思うんですよ。

人口もどんどん増えている時代で、モノを必要とする人も当然増えるじゃないですか。

でも今は人口も減少して、しかも趣味嗜好も多様化していますよね。
そうなると、一人ひとりにとって本当にいい商品、本当に必要な商品をしっかり開発して、コミュニケーションもふくめて丁寧に届ける、というようなことが絶対的に求められてくると思います。

マスメディアがなくなることはないですけど、相対的にデジタルマーケティングの重要性がどんどん増していく時代なんじゃないかなと思いますね。

本当に一人ひとりに必要な情報をきめ細かく届けるというのが大事な時代で、届ける内容も手法も細分化していかないといけないということなのかと思いますね。

買いたいと思ったときに頭に浮かぶブランドになることが重要

エボークトセット/株式会社ネオマーケティング提供
(エボークトセット/株式会社ネオマーケティング提供)

―最後に、今後の展望についてお聞かせください。

目標は、マーケティングに関することで悩んだり迷ったりしたらネオマーケティングに相談しよう、と思ってもらえる会社にすることです。

早稲田大学のマーケティング研究者、恩藏直人教授と共同研究で「エボークトセット(※4)調査」というものを行っているんですけど、人間って、なにかを買いたいと思ったときに思い浮かぶブランドが2,3個くらいしかないんですよ。

※4 エボークトセット:Evoked Set(想起集合)とは、「ビールを飲みたい」「洗剤を買おう」などと思ったときに、購入の検討対象として頭の中に浮かぶブランドの集合体。

橋本さん:たとえば「缶ビールを飲みたい」って思ったときに、いつも自分が飲んでいる2種類程度しか浮かばない、とか。
実際にモニターさんには自由記述で書いていただくんですけど、その中に入ることができないと、なかなか購入してもらえないんです。

だから担当者さまに「なにかマーケティングに関することで困ったときの相談先」として挙げられるような会社になりたいと思っています。

―いま缶ビール以外に、食べたいグミやチョコを考えてみたんですけど、あまり多くは浮かんでこないですね。

橋本さん:そうですよね、それで多くの人は実際にその浮かんだものを買うんですよ。

―たしかに新しいものよりも、なんとなく知っているもののほうが手を伸ばしやすいという方は多そうです。

橋本さん:そうなんですよ。
それでも店頭で買い物をしていたら、新しい商品を発見して「買ってみようかな」と興味を引かれたり、ついで買いをしたりすることもあると思うんですけど、それこそコロナの影響もあって、店頭での購買シーンが減ると、買い物のときにネット検索するじゃないですか。

Googleやインスタで検索して情報を収集するので、よりエボークトセットが重要になってくるんですよね。

―ECでも同一ショップ内であればレコメンド機能などでついで買いを促進できますが、検索エンジンから検索されてしまった場合は、その商品だけを即決で購入されてしまいそうですね。

だからこそ「買いたい」と思ったときに名前が挙がるようなブランドにしないといけないということですね。

橋本さん:エボークトセットについて、きちんと有意な数値までサンプルを集めて蓄積しているんですけど、ブランドの順位が入れ替わったり、新しいものが台頭してきたりするタイミングというのがあって、おもしろいですよ。

―それは歴史に立ち会えた気持ちになって、おもしろそうです。
ちなみに、たとえば「缶ビールといえば?」と聞かれて浮かぶような「認知しているブランド」と、「缶ビールを飲みたい」というときに浮かぶエボークトセットは違う結果になることが多いのでしょうか?

橋本さん:多くはないですが、違うケースもあります。
「認知」と「エボークトセット」、それから「推奨」も違いますね。
「人に推奨するならどのブランドですか?」と聞くと、また違う答えが返ってくるんです。
もちろん、薦める相手によっても変わってくると思いますが。

―たしかに缶ビールひとつでも、ぱっと思いつくもの、いま飲みたいもの、人に薦めたいもの、それぞれ違います。

橋本さん:そのエボークトセットに入るために、メーカーさんは必死に戦略を練っているんですよ。
とはいえ、3位のブランドが1位や2位に上昇するというのはかなり難しくて、なので、カテゴリーを少しずらすことを推奨しています。

一般的な事例でいうと、「ワンダ モーニングショット」は「朝専用缶」と訴求されていますよね。

―朝ではなく夕方に飲んでもいいわけですもんね。

橋本さん:そういうことです。
まさにマーケティング戦略ですよね。
「朝専用缶」といわれると、「缶コーヒー」ではなく「朝に飲む缶コーヒー」というカテゴリーの商品だと認知されるわけです。

当社のクライアントさんには、細分化したカテゴリーのなかで1位を取りましょう、と提案しています。

まさに先ほどの話とつながっていて、マスメディアで認知を広げて大量に販売していくのではなく、一人ひとりに向き合ってメッセージを届けていくような時代なので、カテゴリーも細かく絞って、それに合った人に向けて発信していくほうが、買われる方も好意的に受け取ってくれるんじゃないでしょうか。

そのときのムードに応じて商品もサービスも選択する時代

建築中のビル

これだけインターネットが普及しても、なんとなく本だけは、カバーの質感やページをめくる感覚、そして雑誌のように写真がたくさんあるものなら、角度や光の加減で見え方が変わるそのアナログならではの風情も楽しみたく、電子書籍に移行できずにいるという方は少なくないのではないでしょうか。

筆者もそう自覚していたのですが、漫画だけはサブスクの配信サービスを利用して読んでいるということに、最近になって気づきました。

その背景には、TwitterなどのSNS上に自身の漫画を投稿、連載するクリエイターが多く、普段からそれらを電車内などで読んでいたことで、「スマホで漫画を読む」という感覚に慣れていたという部分があると思いますが、それはさておき、改めて感じたのは、「同じ本でもジャンルによって読むシーンが違う」ということ。

小説は時間のあるときにじっくり読みたい、雑誌やアートブックはスキマ時間にパラパラと好きなページを開いてインプットしたい、漫画も小説のようにのめりこんで読みたいけれど、もう少しカジュアルに、長時間の移動や寝る前などがいい、そんな感じです。

人によっては、もっと細かく作家ごとに読むタイミングが違ったり、雑誌ごと、出版社ごとにシチュエーションを分けているという場合もあるかもしれません。

これと似た話をすると、まさしく先日読んでいたカメラに関するZINEのなかで(ちなみに先ほどの分類だと、ZINEは雑誌やアートブックと同じカテゴリーという位置づけです)アーティストが、仕事でポートレートを撮るときはこのフィルム、プライベートはこのフィルム、と分けて紹介していました。

仕事のときは肌が補正されて綺麗に写るものを選び、プライベートでは、あとで見返したときに明るい気持ちになれるよう、鮮やかな色彩で撮影できるフィルムを選ぶのだそう。

そう考えてみると、飽和社会といわれる今、私たちはなんとなく自身に合ったものを取捨選択してはいますが、そのなかでもさらに気分やシチュエーション、TPOによって、よりマッチするものを都度選んでいることに気づきます。

橋本さんがおっしゃっていた、「一人ひとりにきめ細かく情報を届けることが大事」というのは、まさしくこうした選択の際に大きな意味を持ち、大手企業の商品やメジャーなサービスだけでなく、無名のものであっても、「こういうムードのときにはこれ」とカテゴリーを細分化して、それを求めるユーザーのもとに届けることができれば、その可能性は無限に広がるということです。

個人が受信だけでなく発信もできる時代だからこそ、どういった情報をどういった手法で広げていくかというのが重要になります。「だれか」ではなく、輪郭の見える一人ひとりに向き合ってマーケティングを行うことで、おのずとその内容は見えてくるのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

浦田みなみ
元某ライフスタイルメディア編集長。2011年小説『空のつくりかた』刊行。モットーは「人に甘く、自分にも甘く」。自分を甘やかし続けた結果、コンプレックスだった声を克服し、調子に乗ってPodcastを始めました。BIG LOVE……

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