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地方創生

企業の地方創生への取り組み方―成功例をもとに考える

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都市部への人口集中と、それに付随する地方の過疎化は、長らくこの国の課題であり続けてきました。地方の高齢化率が顕著に高くなり、地域産業なども衰退を余儀なくされるなか、2014年に政府が抜本的な対策として打ち出したのが「地方創生」です。

新型コロナウィルスの感染拡大を契機としたテレワークの普及をはじめ、現在では都心偏重の価値観が変化しつつあります。企業にとって、従業員の働き方を見直したり、ビジネスチャンスの拡大を図ったりするうえで、地方に目を向けることの意義は非常に大きなものになっているといえるでしょう。

この記事では、地方創生の基本的な考え方や、交付金をはじめとする政府の施策について概説したうえで、企業による地方創生の事例について紹介していきます。地方創生と企業がどのように関わりうるのか、ぜひ参考にしてみてください。

地方創生とは

地方

「地方創生」という言葉は、2014年の第2次安倍内閣発足時に明確な政府方針として打ち出されたことにより、広く知れ渡るようになりました。
「地方を活気づけること」という意味では「地域活性化」と同じような内容を指しますが、政府が大々的に掲げる「地方創生」は、国家戦略としてのニュアンスを強く含んでいるといえるでしょう。

地方創生の大きな目的としては、「東京一極集中の是正」および「地域の人口減少の改善」により、「日本全体の活力を上げる」ことです。これらの実現に向け、内閣府には地方創生の分野を専門とする組織として「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され、集中的な取り組みがなされるようになりました。

地方創生の具体的目標

「まち・ひと・しごと創生本部」においては、地方創生における「長期ビジョン」と「総合戦略」が示され、2014年から毎年の状況をふまえたアップデートが加えられています。
2014年の発足時には長期ビジョンとして「人口減少問題の克服」「成長力の確保」という大目標が掲げられ、その実現に向けた総合戦略上の観点として「安定した雇用の創出」「地方への人の流れをつくる」「結婚・出産・育児の希望をかなえる」「時代に合わせた安心できる地域づくり」という4点が示されました。
それぞれの観点に応じて、「地方の若者の雇用創出数を5年間で30万人に」「第1子出産前後の女性の継続就業率を55%に」など、具体的な数値目標が設定されており、実際の結果を重視している点が特徴となっています。

>参照:まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」と「総合戦略」の全体像等
(「まち・ひと・しごと創生本部」内)

こうした基本方針については大きな変更はありませんが、2020年には新型コロナウィルスの感染拡大により、国民の意識や行動が変容していくことを念頭に、第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が発表されました。「感染症拡大を防ぐ」という観点から、地域産業のデジタル化やテレワークの一層の推進などが掲げられ、高まりつつある地方への関心を実際の人やビジネスの動きへとつなげていく視点が盛り込まれています。

政府による地方創生への取り組み・施策

施策

地方創生を推進するにあたり、政府が重視しているのは地方公共団体による自主的な取り組みです。それぞれの地方公共団体が「地方版総合戦略」を打ち出し、政府がそれを特区制度や交付金を通じて支援していく形をとっています。
地域特性を活かした施策を行うにあたり、従来は行政の承認手続きや条例面での不都合がありましたが、窓口の一元化や関係省庁の横断的な承認プロセスが取り入れられるなど、個別のケースに柔軟な対応ができる体制づくりが進められてきました。

政府の具体的な施策の軸となっているのは、地方公共団体の「地方版総合戦略」に対する交付金制度です。以下では、地方公共団体の取り組みを継続的に支援する「地方創生推進交付金」と、新型コロナウィルスによる打撃からの復興を目指した「地方創生臨時交付金」について解説します。

地方創生推進交付金について

「地方創生推進交付金」は、地方公共団体が地域活性化のために企画・立案した事業案について、政府が支援するための制度です。交通インフラの整備や農林水産の活性化、行政のデジタル化や観光業の促進、人材育成など、さまざまな分野の事業が対象とされています。

交付対象の選定においては「先導性」が重要な基準とされ、地方の自立性を高めつつ、民間領域を巻き込みながら、長期的ビジョンのもと施策を展開していけることなどがポイントとされています。具体的な数値目標に対するフィードバックを集積できるよう、KPIの設定やPDCAサイクルの確立といった合理的プロセスが重視されていることも特徴です。

>参照:地方創生推進交付金等について(「まち・ひと・しごと創生本部」内)

地方創生臨時交付金について

「地方創生臨時交付金」は、新型コロナウィルス感染拡大により損害を受けている地域の事業者や市民を支援するため、全都道府県・全市区町村を対象に交付される支援金です。
用途はそれぞれの自治体に一任されており、公共施設の感染対策や、事業者への補助金・資金繰り支援など、コロナ禍においてその地域の課題となっている分野に活用されています。
それぞれの自治体がどのような用途に交付金を充当しているかについては、地方創生臨時交付金の専用ポータルサイト上で確認が可能です。

企業が活用できる地方創生関連の優遇制度など

優遇制度

地方創生に関連する交付金は、主としてそれぞれの地方公共団体を対象とするものですが、企業や個人を対象とする支援制度も存在しています。ここでは、事業者を対象とした施策・制度について紹介していきます。

地方拠点強化税制

本社機能を地方へ移転、または拡充する企業を対象にした、法人税の軽減措置です。対象となる事業として、「移転型事業」と「拡充型事業」という2パターンが想定されています。

移転型事業は、東京23区内に本社機能を置く企業が、その機能の一部または全部を地方に移転する場合に適用されます。
一方の拡充型事業は、企業が地方に拠点を拡充する場合や、23区外に拠点を置く企業が別の地方に移転する場合に適用される制度です。
主な優遇措置としては、建物などを取得した場合の「設備投資減税(オフィス減税)」や、従業員を新たに雇用した場合の「雇用促進税制」が挙げられます。

税制の適用を受けるには、まず都道府県知事から整備計画の認定を受ける必要があります。都道府県別の窓口の一覧は、首相官邸サイト内の該当ページから確認が可能です。
地方拠点強化税制の詳細については、同サイトのこちらのページからご確認ください。

起業支援金・移住支援金

地方におけるビジネスの拡充を目的に、地域課題に関連した分野での起業や、地方への移住を推進するための支援制度です。形態に応じて「起業支援金」と「移住支援金」のいずれか、もしくは両方の適用を受けられます。

「起業支援金」は、東京圏以外において地域課題の解決に寄与しうる事業を開始しようとする事業者に対し、起業に必要な経費の2分の1相当額(最大200万円)を助成する制度です。支援金以外にも、各都道府県から任用された団体によるバックアップが提供されます。
想定される事業として例示されているのは、「子育て支援や地域産品を活用する飲食店、買い物弱者支援、まちづくり推進」などであり、地域特性や現状に合わせて幅広い事業が対象とされています。

「移住支援金」は、23区内に在住、または通勤していた方が、地域の中小企業への就職にともない移住する場合や、起業にともない移住する場合を対象としています。支援額は最大100万円、単身者の場合は最大60万円です。

就職に際して「移住支援金」の対象となるには、内閣官房・内閣府が用意する「地方創生」の専用サイト上から、求職マッチングシステムの「ふるさと求人」を通して就業を決める必要があります。

起業のための転居に際して「移住支援金」の対象となるには、上記の「起業支援金」の対象者としても認定されている必要があります。つまり起業支援金の対象者で、23区内から地方に移住する場合には、「起業支援金」「移住支援金」の両方を受給しうるということです。

なお、上記の「ふるさと求人」に情報を掲載したい中小企業も募集されています。条件を満たせば無料で掲載でき、支援金を利用した移住を考えている求職者にアプローチしたい場合には有効な方法となるでしょう。
求人情報掲載についての概要は、こちらのリーフレットから確認することができます。

「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」への登録

「地方創生に自社のノウハウを活かしたいが、それを必要としている地方公共団体がわからない」といった場合には、「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」への登録が有効です。
企業などの民間事業者のノウハウを必要としている地方公共団体と、地方公共団体の事業に協力したい企業などとの間でマッチングを行うシステムであり、掲載されている地方公共団体のリクエストに対して提案を行うことができます。

なお、こちらの別記事にて「SDGs」の概要や、地方創生との関連性について解説しております。あわせてご参照ください。

企業による地方創生の成功事例

歯車

地方公共団体などと連携しながら、地方創生に関わる事業で成果をあげている企業を紹介します。いずれも事業所の移転や、農林水産業のスマート化、事業者間ネットワークの構築など、多様な形で地方のビジネスを活性化させています。

本社機能の移転:株式会社小松製作所

建機メーカーの大手「株式会社小松製作所」は、地域交流施設と人材育成拠点としての機能を有する複合施設「こまつの杜」を石川県小松市に設置しました。
それまで複数の事業所に分散していた研修機能を一つにまとめることで効率の向上を図るとともに、地域の関係人口増加にも寄与する取り組みです。

交流施設においてはOB社員による子ども向けのものづくり教室が開催されるなど、建設・産業技術を身近なものとして体験できる場が用意されており、地方における教育機会の多様化や、観光客の呼び込みにも貢献しています。

>参照:地方創生 事例集(「まち・ひと・しごと創生本部」内)

地域産品のグローバル展開:株式会社キョクイチ

北海道旭川市の「株式会社キョクイチ」は、生鮮食品卸の分野で地域の中心的役割を担う企業です。水産、農産、畜産の多品目を集荷から販売までワンストップで手掛け、大規模な卸機能・市場機能を有しています。

地方創生の取り組みとして際立っているのは、アジア圏への販売ルートを創出し、地域の生産者が扱う商品を輸出するという商社機能の強化です。北海道産の生鮮食品を広くブランド化していくうえで、重要な役割を担うことが期待されています。

>参照:地方創生 事例集(「まち・ひと・しごと創生本部」内)

業者間ネットワークの構築:シタテル株式会社

「地方創生」というと農林水産部門がまず思い浮かぶかもしれませんが、アパレルの分野で地域の業者間ネットワークの強化に貢献しているのが熊本県熊本市の「シタテル株式会社」です。

アパレル業界は生産から販売までのプロセスが複雑化しやすく、メーカーやブランド、デザイナー、小売店、縫製工場など関係業者との連携がスムーズにいかないケースが多く見られました。
シタテル株式会社はこの点に着目し、クラウドプラットフォームを通じて業者をマッチングさせながら生産プロセスを管理できるシステムを構築。流通経路の確立に課題を抱えてきた地域の職人や工場などが広く活躍できる場を整えています。

>参照:地方創生 事例集(「まち・ひと・しごと創生本部」内)

農業のスマート化:株式会社Amnak

兵庫県養父市にて塗装工事などを請け負う「山陽Amnak株式会社」は、「国家戦略特別区域会議」への参画を通じて、新たに農業部門として「株式会社Amnak」を設立し、地域農業の活性化に貢献しています。

収穫したコメの精米や検査、保管を請け負う「ライスセンター」の設立や、休耕地における農作業の受託業務などを通じ、スマート農業にもとづくビジネスモデル構築に向け取り組んでいるとのことです。
自社ブランドの日本酒を醸造し、それを海外に輸出するなど、地域産の商品の魅力を広めていくことにも貢献しています。

>参照:養父市が活用している規制改革メニュー・特区事業者の紹介(「養父市」内)

まとめ

2014年に政府が「地方創生」を方針として打ち出してからも、都市部で生活・仕事をしている方々には具体的な動向を実感する機会がなかったかもしれません。
けれども、その動きは着実に各地の地方公共団体へと波及しており、人口流入や地域経済の活性化のため積極的な取り組みを見せている自治体も数多く存在しています。

新型コロナウィルスの感染拡大が仕事のあり方を見直す契機ともなっている現在、事業によっては地方への進出や本社機能の移転を考慮してみる意義は大きいかもしれません。
とりわけ個人事業主や起業を検討している人にとっては、地方での起業・移住の支援金など少なからぬメリットが存在しています。

地方公共団体によって、独自の補助金や支援策が行われていることも多いため、自身の街や移転・移住を考えている地域でどのような事業や施策が行われているのか、まずは一度チェックしておくとよいでしょう。

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この記事を書いた人

鹿嶋 祥馬
大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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