ステルスマーケティング(ステマ)とは?その意味と法規制について
SNSや口コミサイトなどの重要性が高まるとともに、「ステルスマーケティング」と呼ばれる手法を用いる企業が見られるようになり、世間から問題視されるケースが増えています。
こうした動向をふまえ、政府は2023年3月に景品表示法を改正。同年10月からステルスマーケティングを規制の対象とします。
この記事では、ステルスマーケティングの基本的な意味を確認したうえで、どのような広告・宣伝の手法が規制の対象となるのかを解説していきます。
目次
ステルスマーケティング(ステマ)とは
ステルスマーケティング(ステマ)とは、事業者が自社の商品・サービスについて宣伝する際、それが広告・宣伝であることを隠しながら、自社に有利な情報を広めようとすることを意味します。
代表的な例としては、企業がSNS上で影響力をもつインフルエンサーなどに対し、何らかの対価を提供することで商品を紹介する投稿を依頼し、あたかも当人が自主的に投稿しているかのように見せるケースが挙げられるでしょう。その他、口コミサイトやECサイトのレビュー機能、ブログなど、「利害関係のない第三者が評価しているかのような形式」を通じて高評価を広めようとする手法も散見されます。
従来から、店頭販売などにおいて仕込み客を用いる「サクラ行為」のように、ステマに類する手法は問題視されてきました。現在では、SNSや口コミサイトの利用者増を背景に、ネット上でのステマが横行している状況にあるといえるでしょう。
ステルスマーケティングの問題点
消費者が何らかの広告コンテンツに触れる際、それが「企業による広告」であることを知っていれば、目にした人はおのずと「商品・サービスのよい点をアピールするために作られたコンテンツ」として捉えることができるでしょう。
反対に、広告であることが明らかでないSNS投稿などを目にした場合、「個人が自分の意思で高評価を述べている」という印象を抱きやすいと考えられます。つまり、そこで発信される情報が「実体験にもとづく率直な感想」として捉えられやすいのです。
このような印象操作を狙っている点で、ステマは消費者の自由な情報収集や意思決定を阻害する広告として問題視され、欧米を中心に法規制が進められてきました。
一方、法整備に遅れが見られた日本国内においても、企業によるステマは消費者の反感を買い、発覚した場合にはネット上での炎上騒動などに発展するなど、大きなイメージダウンを余儀なくされるケースも見られました。
このように国内においては、ステマを「法規制」ではなく「企業倫理」の面で抑止する実情が続いていたといえます。しかし景品表示法の改正により、国内でもステマが法律面から禁じられることになったのです。
ステルスマーケティングを禁止する法規制の概要
2023年3月、景品表示法において禁じられている「不当表示」の一部にステルスマーケティングに関する項目が追加され、10月から運用が開始されます。
新たに不当表示の対象となるのは、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」です。つまり、事業者の広告であるにもかかわらず、消費者側がそれを広告と判断することが難しいものが規制対象とされます。
たとえば上図のように、企業の依頼によってSNS上で商品を紹介するなど、「広告主からの対価を得て、当の商品を好意的に提示する」形式でありながら、それが広告であることを明示していないケースが主な規制対象となるでしょう。
なお、違反した場合には広告を依頼した企業の名称が公表され、再発防止への措置命令が発されます。さらに、命令に従わないなどの悪質な場合には、広告主が刑事罰に処される可能性もあり、厳しい措置が設けられています。
ステルスマーケティングが違法となるケース
上述のように、景品表示法の改正によって規制の対象となるのは「企業の広告であることを隠しながら、利害関係のない第三者が投稿・紹介しているかのように見える広告・宣伝」です。
ここでまず問題になるのは、「広告であることを明示しているか」という点でしょう。それが広告であることを明らかにしていれば、「企業が第三者に商品などの紹介を依頼する行為」そのものは違法とされていません。
たとえばインフルエンサーを広告のために起用していても、当の投稿が広告であることを明示していれば、規制の対象には当たらないといえます。
それでは、「広告であることを明示しなければならないケース」はどのようなものでしょうか。また、広告であることの記載方法はどのようにすればよいのでしょうか。以下ではこの2点について、消費者庁が発表したガイドラインをもとに解説していきます。
(以下参照:消費者庁「「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の指定及び「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」の公表について」内PDF資料「「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準」)
広告であることを明示すべきケースとは
消費者庁のガイドライン上、広告であることの明示が必要となるのは、「事業者が表示内容の決定に関与した」場合です。これはつまり「企業側が利害関係などを通じて、自社の関係者あるいは第三者が発信する情報の内容を左右するケース」だといえるでしょう。
このケースは大きく「事業者が自ら行う表示」と「事業者が第三者をして行わせる表示」の2つに分類されています。
自ら行う表示
「自ら行う表示」に該当するのは、企業の従業員や関連会社の関係者などが、あたかも利害関係のない第三者であるかのように振る舞い、商品などを好意的に紹介するといったケースです。
一方、企業の広報担当者などが自身の立場を明示して商品を紹介する行為や、企業の従業員が自社の商品をその立場を知っている知人にプライベートで紹介する行為はこれに該当しないと考えられます。あくまで規制対象は「販売促進の意図がありながら、その意図や立場を隠して商品などを紹介する行為」です。たとえば「SNSや掲示板で一般消費者を装った投稿を行う」など、消費者を誤認させる行為を禁じることが焦点とされているのです。
第三者をして行わせる表示
「事業者が第三者をして行わせる表示」についても、まず販促の意図とその隠蔽が問題となります。SNSや口コミサイトなどにおけるサクラ行為の指示・依頼や、広告主との関係を隠したインフルエンサーの起用などが代表的なケースとして挙げられるでしょう。
また、第三者への委託行為が問題となるのは、必ずしも金銭を通じた依頼・指示だけではありません。ガイドラインにおいては「イベント招待」など、「対価性を有する一切のもの」を通じて表示を促す行為が広告表示の構成要件として位置づけられています。
さらに、事業者側が第三者に「明示的に依頼・指示していない場合」であっても、双方の関係から鑑みて「事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性」が認められる場合には、「第三者をして行わせる表示」に該当する可能性があります。
たとえば特定の企業から継続的に案件を受託しているインフルエンサーであれば、当の企業に対してネガティブな内容を投稿することは憚られると想定され、「普段からも頼むよ」といった口頭でのやり取りが圧力を生じさせることもあるでしょう。
とはいえ現状のところ、「第三者をして行わせる表示」に含まれる範囲については明確でない点も多く見られます。重要なのは「第三者が自由な意思にもとづいて商品などを紹介しているか」というポイントであり、金銭をはじめとする取引関係や権力関係などを通じて、そうした自由な意思に影響が及んでいるケースが焦点とされています。
広告であることを明示するための方法について
上述の「自ら行う表示」「第三者をして行う表示」のいずれかを行う場合には、それが広告であることを明示しなければいけません。コンテンツの冒頭やタイトルの一部に「広告」「宣伝」「PR」「プロモーション」といった文言を添えるなど、消費者による誤認を防ぐための表記が必要です。
たとえ「広告」などの文言を表示していたとしても、それが誤解を招く方法である場合には、不当表示と見なされる可能性があります。ガイドラインにおいては不適切な表示方法の一例として、動画内においてごく短時間しか文言を表示しない手法や、文字のサイズを他のテキストよりも小さくする手法、SNS上で大量のハッシュタグに文言を紛れ込ませる手法など、意図的に視認性を低下させる手口が挙げられています。
ステルスマーケティングを避けるために気をつけるべきポイント
ステマを規制する景品表示法には、運用基準が完全に明確化されていない部分もあり、はっきりとした規制の骨子を見定めるには今後の動向を注視していく必要があります。
以下では現段階において発表されている消費者庁のガイドラインに記載のある範囲で、ステマを避けるうえで留意すべきケースについて解説していきます。
競合他社の製品への批判もステマに該当
ステマに該当しうるのは「自社の製品」に関する情報発信だけではありません。第三者を装った「他社製品との比較」なども規制の対象となりうるため注意する必要があります。
消費者庁のガイドラインにおいては、自社と利害関係にある者が第三者を装いながら「自社製品と競合する他社の製品を誹謗中傷し、自社製品の品質・性能の優良さについて言及する表示」を行うことが規制対象として挙げられています。
たとえばネット掲示板やSNS、ブログなどにおいて、一般消費者を装い他社製品を非難し、自社に優位な情報を発信することはステマに該当しうる行為のため、避けなければいけません。
割引施策などによるレビュー投稿の誘導はOK、しかし注意も必要
口コミサイトなどに消費者の自主的なレビューを促すための施策は、基本的に規制の対象とはされていません。消費者庁のガイドラインにおいては、ECサイト上にレビューを投稿した消費者に対するポイント還元施策や、レビュー投稿を参加条件とするキャンペーンなどは「規制対象とはならないケース」として挙げられています。
ただしこれらのケースにおいても、「消費者が投稿する内容に関して事業者側が関与していないこと」が求められます。たとえばレビュー投稿そのものではなく、高評価を条件に割引を行うケースなどは、投稿の内容面に事業者側が関与していることから、ステマに該当する可能性があるでしょう。
自社のホームページなどに口コミ情報を掲載する場合
企業のWebサイトは、扱う商品・サービスなどを訴求する場であることが「社会通念上明らか」であることから、基本的に掲載内容が広告・宣伝目的であることを表示する必要はありません。ただし、サイト上で「商品の口コミ」などを掲載する際には留意すべきポイントもあります。
たとえば消費者や専門家に対価を支払い、製品を紹介するメッセージを依頼していながら、その紹介文が中立的な立場から書かれたもののように扱う場合には、ステマに該当する可能性があります。このように自社のサイト上でも、企業側の意向や取引関係によって内容に影響が生じている口コミを扱う場合には、広告である旨を表示しなければいけません。
さらに、実際にSNSやレビューサイトに投稿されている情報を自社のサイトで紹介する際にも注意が必要です。たとえば自社に好意的なレビューのみを抽出し、それが全体の評価であるかのように見せかけたり、投稿内のネガティブな言及を隠したりといった恣意的な操作があると、消費者の誤認につながるステマと見なされる可能性があります。
現状では「何がステマに該当するのか」という線引きにはグレーゾーンが多く残されており、今後の運用を通じて基準は明確化されていくと考えられます。現段階で想定されていないケースについても、状況に応じて規制の対象とされる可能性もあるため、これからの動きをチェックしておくことが大切です。
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