最先端のWebマーケティングを発信するメディア

最先端のWebマーケティングを発信するメディア
TBCCインタビュー

脱クルマ離れ!“感情”重視のtokyo basic car clubの挑戦

最終更新日:
SHARE
FacebookTwitterLineHatenaShare

ヤングタイマーと呼ばれるクルマが人気再燃しているのをご存じでしょうか。今回は、中古車の個人売買の仲介、YouTubeなどカーメディアの運営、そしてこのたびFREAK’S STOREとのコラボアイテムも発表されたアパレル事業も展開するtokyo basic car club(トーキョーベーシックカークラブ/TBCC)の代表、南部翔也氏にインタビューしてまいりました。

ヤングタイマー車とは

明確に定義づけられているわけではないのですが、主に1980年代~1990年代、もしくは2000年代ごろに発売されたクルマを指すことが多いです。一般的に、戦前戦後のヴィンテージカーや1970年代以前、あるいは非常に希少性の高いクラシックカーを表す「オールドタイマー」という言葉に対比させる意味合いで広まっていったといわれています。

自動運転など最新技術が発展していくなか、今またこのヤングタイマーが人気を集めています。電子制御されていない車種に乗ることで、より「自身がダイレクトに操縦している」という感覚に喜びを覚える人もいますし、「すぐには手に入らない、けれどオールドタイマーほどメンテナンスに苦戦しない」といったところに魅力を感じる人もいるでしょう。人気の理由はさまざまです。

しかもそのブームは年齢を問いません。「消齢化社会」といわれる現代においては、当時クルマに乗っていた世代だけがノスタルジーで盛り上がっているわけではなく、クルマ離れが問題視される若者世代の目にはレトロで新鮮に映ることから、ライフスタイルにこだわりを持つ層を中心に広まっているのです。

このトレンドにいち早く気づいたのが株式会社tokyo basic car clubの代表取締役、南部 翔也氏。YouTubeやInstagramでカーライフの魅力を発信しつづけ、中古車の個人売買の仲介などを行っています。

クルマという高額な買い物をスマホ1台で、しかもSNS上ですませるというのは、ひと昔前では考えられなかったことかもしれません。独自に築いたビジネスモデルの戦略と起業のきっかけなどについてお聞きしました。
(2023年10月10日取材)

tokyo basic car club(TBCC)とは

株式会社tokyo basic car club 代表取締役 南部 翔也さん
(株式会社tokyo basic car club 代表取締役 南部 翔也さん)

―現在の事業展開についてご紹介いただいてもいいですか?

株式会社tokyo basic car club 代表取締役 南部 翔也さん(以下、南部さん):「tokyo basic car club(TBCC)」の名義でYouTubeInstagram上でカーメディアを運営しつつ、そこをハブとして中古車の個人売買の仲介を行っています。

あとはオリジナルアパレル商品の企画販売、「カーコーディ!」というヤングタイマー車に特化した、広告、MV、映画等への車両提供サービス……クルマ版キャスティング会社のような事業も展開していますね。

―自社で管理している車両をお貸しするのでしょうか?

南部さん:独自のネットワークの中からクライアントさまのご要望に沿ったクルマをお持ちの方に「こんな依頼があるんだけど、どうですか?」ってお声がけする感じですね。

劇用車を手配している会社もありますが、ヴィンテージカーやスーパーカーの取り扱いが多いみたいで、僕らが扱っている90年代くらいの“間のクルマ”はちょうど隙間産業ということで結構ご相談をいただいています。

特に僕が以前、広告代理店に勤めていたこともあって、わりとそういったコンテンツづくりの勘所みたいなのを押さえているのかなと思うので、ニーズに合わせてご提案できているのかなと。

でも基本的には個人販売の仲介がメインです。
Instagram上で「クルマを売りたいです」ってご連絡をいただいたら、撮影しに行って、詳細を投稿して、売り買いの手続きのサポートを行うというのが主な事業内容ですね。

その後も在庫として抱えるわけではないので、あまり原価がかからない分、売り手さんには高く売ってもらって、買い手さんには安く買ってもらうというメリットを還元させていただいています。

“行きつけの古着屋さん”のクルマ版サービス

―投稿後、どのくらいで購入が決まりますか?

南部さん:早いと1週間くらいで決まっちゃいますね。
やっぱり一点物なので、「この車種で、この色で」という条件にドンピシャなクルマってなかなか出てこないんですよ。
なので、当てはまるものが出てきたらすぐ!という感じですね。

あと、普段メディア上でカーライフの提案もしているので、「僕にぴったりなクルマを教えてください」といったご相談をいただくことも多いです。

街乗りですか?遠出しますか?サーフィンしますか?好きな音楽はなんですか?普段どういうファッションをしますか?といったことをヒアリングしてご提案させていただいています。

服屋に行って店員さんに「普段はこういうファッションが多いんですけど、今シーズンのおすすめありますか?」みたいな質問をすることもあるじゃないですか。
そのクルマ版みたいな感じで捉えていただいているんだと思います。

―いままでに特に「この方にこのクルマの組み合わせはばっちりはまった!」と感じたご提案はありますか?

南部さん:基本的に似合わないクルマはおすすめしないので、みなさんよくお似合いなんですけど、「特に」というと、僕と同い年の美容師の方にご提案したトヨタのマークIIですかね。

独立してご自身のお店を持っている方なんですけど、趣味嗜好を挙げると、普段古着のアメカジファッションを着こなしているので、もともとはいわゆる「アメ車」をお探しだったんです。

でも「これはどうですか?」と提案してみたら「日本車でもアメリカンな雰囲気のあるクルマがあるんだ」とはまって購入してくださったのでよかったですね。
納車の様子をYouTubeに上げているんですが、42万回以上再生されていて、たぶん視聴者の方々も似合っていると思ってくださっているのかなと思います。

(コメント欄には好意的なメッセージが数多く並ぶ)

広告代理店勤務から独立、「やるなら一番好きなクルマ業界」

―tokyo basic car clubを立ち上げたきっかけはなんだったのでしょう?

南部さん:一昨年に結婚式を挙げたんですが、そのときに流すウェディングムービー用に子どものころの写真を集めてみたら、手にクルマのおもちゃを持っているものばっかりだったんですよね。
そのくらい、ずっとクルマは好きなんですけど、最初は特に仕事にしようとは思っていませんでした。

ただ、いつかは起業したいと思っていて、そのために広告まわりやwebマーケティングのスキルを身につけようと広告代理店に就職したんです。
25歳になったときに「どうせやるなら自分が一番好きなクルマに関する仕事をしたい」と改めて感じて「クルマ×IT」というビジネスを思いつきました。

―もともとヤングタイマー車に乗られていたんですか?

南部さん:会社員時代に、いまも乗っているゴルフIIを買って「昔から好きだったけどやっぱりクルマって最高だな」と自分の中でもう一度盛り上がる感覚があったんです。

(こちらが南部さんの愛車ゴルフII)

南部さん:「若者のクルマ離れ」といわれているとおり、僕はいま29歳なんですが同年代でクルマを買う人がかなり少なくて、この楽しさを少しでもいろんな人に伝えていきたいと思って始めたというところもあります。

独立したのがちょうどコロナ禍で、電車など不特定多数の方と一緒に移動する空間を避けたいというニーズもあり、中古車市場相場が少し上昇したんです。
さらにキャンプブーム、サウナブームという追い風もあって、タイミングもよかったんですよね。

―その時期は見計らっていたのでしょうか?

南部さん:全然(笑)!
仲のいい上司が、僕の協調性のなさを見て「たぶんひとりでやったほうがいいんじゃない?」って言ってくれたのがきっかけでした。

その人もその後独立してフリーランスで活動しはじめたんですが、いまも応援してくれていて、ときどきTBCCの事業を手伝ってくれたりしています。

「飲んだ勢いであんなこと言っちゃったものの、あとから大丈夫かなって心配していたから、好調みたいでよかった」って言っていました(笑)。

クルマ“なのに”スペックより感情優先

―起業する前にスキルを身につけたくて広告代理店に入社されたということですが、いま「経験しておいてよかったな」と思うのはどういったことですか?

南部さん:当時TikTokが来日したばかりで、TikTokの啓蒙活動をしたり、広告枠の販売を行っていたんですよ。
その少し前から、実店舗を持たなくてもweb上だけで商売を完結させられるような企業が増えてきていて、たった一晩、SNS上のたったひとつの投稿で状況が一変するようなクライアントさん、インフルエンサーさんを見ていたので、「クルマのサービスでも展開できそう」というのは思っていましたね。

―クルマのような大きな買い物をSNS上で展開するのはなかなか難しい部分もあるのではないかと思ったんですが、そのときに見せ方などノウハウを学ばれたということですね。

南部さん:SNSの使い方は無限にあると思います。
たとえばクルマを販売するとなるとスペック重視になることが多いんですが、ヤングタイマーの場合はそういった数字などよりも、心にぐっとササるかどうかが重要だと思うので、それを伝えるにはSNSは相性がいいと感じていました。

とはいえ始めたばかりはフォロワーも数百人くらいしかいなかったので、そんな場で「自身のクルマを売りたい」「このクルマを買いたい」と言ってくれる人はなかなか現れるはずもないので、まずはアカウントを育てることを最優先させましたね。

そのためにフリーランスで仕事をいただいて生計を立てていたんですが、その仕事についても、大手企業のアプリ開発や動画制作会社での広告制作など、TBCCにスキルを持ってこれるような案件を選ぶようにしていました。

そんな時期が1年半くらい続いて、ようやくクルマ事業だけで自走できるようになってきたという感じです。

先日TBCCがトヨタの公式YouTube用動画のプロデュースを担当させていただくことになり、今まで培ってきたスキルを発揮させていただきました。

―こちらの動画は撮影や編集だけでなく企画にも携わったということですが、YouTubeに公開するコンテンツにおいて、こだわりなどはありますか?

南部さん:やはりクルマのスペックに重きを置かないというのはSNSと共通しているんですが、裏テーマとして「ボンネットを開けない」と決めています。

クルマ系YouTubeでは「このエンジンが……」「ここのカスタムが……」と解説されることが多いんです。
でも僕らはそこではなく、そのクルマと過ごすライフスタイルにフォーカスしたいと思っています。

―たしかに何本か拝見しましたが、カーライフを身近に感じられる内容ばかりでした。
毎回ご自身で制作されているんですか?

南部さん:最初のころはα6500(デジタル一眼カメラ)を買って自力で制作していたんですけど、仲間になってくれる人が増えてきて、いまは写真も動画もそれぞれ専任の担当者がいます。

レベルアップするたびに仲間が増え、さらにクオリティがアップして次のステップに繰り出す、っていうポケモンみたいな感じです(笑)。

―YouTubeに出演される方はどうやって探しているんですか?

南部さん:最初はInstagram上で探してDMでアポを取って……、ということをやっていたんですが、徐々にブランド力が高まってきて、過去に出演してくださった方がべつの方をご紹介くださったり、またその友だちをご紹介くださったり……という感じで最近は紹介というケースが増えてきました。

当初は急に知らないアカウントからDMが届いて「だれ?」みたいな反応をされることもあったので、かなりやりやすくなりましたね。

―いまやInstagramのフォロワー数は約2.3万人、YouTubeのチャンネル登録者数は約3.5万人と拡大しているので、ファンのあいだでは動画に出演することがひとつのステータスになっているかもしれません。

ヤングタイマー車には世代ごとに異なる魅力がある

―改めてヤングタイマーの魅力を教えてください。

南部さん:まずはやっぱり現行車にはないデザイン性。
20代からするとちょっと新鮮に見える、30~40代からすると親世代が乗っていたから懐かしい、さらに年配の方からすると初めて買った車だったりしてノスタルジーを感じる、といった感じでどの世代にもぐっとくるところがあるんです。

あともっと古いオールドタイマーだと価格が高かったり、維持も大変だったりするので、まだ手の出しやすい価格でメンテナンスもそれほどハードルが高くないというのも最近流行している要因だと思います。

ファッションもちょうど80~90年、2000年代のスタイルがトレンドなので、クルマも同じように復刻しているというところもあります。
100万円のヴィンテージデニムは難しいけど、90年代のOLD STUSSYなら手が届くし、今の気分にも合う、といった感じでしょうか。

―メンテナンスは初心者でもできるのでしょうか?

南部さん:いまのクルマと比べて構造がシンプルなんですよ。
最近は電子制御でいろんな部品がつながっているので、ひとつ壊れたら総とっかえしなきゃいけないということもあるんですけど、古いクルマはパーツごとに分かれていてシンプルなのでわかりやすいです。

オールドタイマーほど古くなると、今度はその部品の入手が困難ということもありますが、ヤングタイマーはそんなこともないので、そこも若い世代に好まれている理由のひとつかもしれません。

パーツが入手できないと自分でお金を払って特注される方もいるので、そういったこともあってヴィンテージカーは富裕層のシンボルみたいなイメージもあるんだと思います。

同じ中古車でも、コレクタブルでもなく、ファッションの一部、もしくは相棒として選ばれるヤングタイマーとは別物といえますね。

クルマ離れが深刻化している若者にカーライフを

南部 翔也さん

―若者のクルマ離れへの対策などはなにか考えていますか?

南部さん:もちろん物価が上がっているのに所得は低いままということもあると思いますが、まず周りに乗っている人がいないというのも要因のひとつかなと思うんです。
徐々にクルマを持つ若者が減少してきて、その行き着いた先がいまで、クルマを持つ生活がリアルに感じられないのではないかと。

僕らはYouTubeやSNSで、実際にいまクルマに乗って生活をしている若者のライフスタイルをお見せすることで「俺と同年代でも都内でクルマを持っている人がいるんだな」、あるいはもっと若い世代には「俺も将来こんな感じの仕事をして、こういう服を着て、こういうクルマに乗りたいな」と思っていただけるきっかけを作っています。

年配の方にお話を聞くと、近所の年上のお兄さんたちが18歳になったらクルマを買っていて、それに憧れて自分も18歳になったら同じようにクルマを買って……という環境だったというんですが、いまならSNSでそういった存在を見つけるのではないかと。

―過去にはパートナー割や親ローン割(※)などユニークなキャッシュバックキャンペーンも多く行われていましたが、それもクルマ離れ対策のひとつの施策でしょうか?

(※)パートナー割は、パートナーに反対されながらも購入に踏み切った方への割引、親ローン割は両親に立て替えてもらって購入した方への割引。ほかにも自身の生まれ年に初年度登録されたクルマを購入された方向けの「タメ割」など、さまざまなキャンペーンを期間限定で実施していた。
当時のプレスリリース(PR TIMES)

南部さん:そうですね、このキャンペーンで大きな利益を生み出そうとしているわけではなく、あくまでもまだクルマを持ったことがないような若い世代の背中を押すのが目的で実施しました。

ほかに「Tokyo Holiday Bazaar」というイベントも行いました。
80~90年代くらいの人気のクルマだけを10車種展示して、現役のオーナーさんにいろいろお話を聞けるというものだったんですが、1日で400人くらいご来場くださって、結構盛り上がりましたね。

南部さん:クルマに興味を持っても専門店は敷居が高くて行きにくいということもあるので、そういうイメージを払拭する目的もあったんですが、やっぱり実際にオーナーさんが隣に立っていると「すぐ壊れますか?」なんていう質問も気軽にできるので、コミュニケーションも活発に行われていてうれしかったです。

クルマは“一番でかいアウター”

―SNSのフォロワー数はどうやって伸ばしていったのでしょう?

南部さん:特にフォロワーを増やすために行ったことというのはないですね。
クルマとカーライフをご紹介するという今のフォーマットに自信があったので、最初からずっとそれを続けているという感じです。

そのうち若い世代から気づいてくれる方が増えてきて「クルマっていいじゃん」という空気がだんだんできてきたかなと思います。

―もともと存在していたクルマのファン層に認知されるようになったということでしょうか?

南部さん:それが、僕らのお客さまには昔からクルマが好きだったという方は少ないんですよね。
アパレル系やスタイリスト、フォトグラファー、美容師といった、いわゆる感度の高い人が服を買う延長でクルマを買うというひとつの道筋ができてきたと考えています。

「一番でかいアウターがクルマだ」とおっしゃるお客さまもいて、身のまわりのものにこだわりを持った結果、クルマにたどりついたのかなと。

―それはおそらく業界内では珍しいことですよね?

南部さん:そうだと思います。
でも最近は大手のメーカーさんも「燃費◯キロ」といったスペックではなく、「キャンプに行くならこのクルマでしょ!」といった、クルマのある暮らしをイメージさせるような宣伝方法が増えてきたように感じます。

特に中古車の場合はスペックのみで現行車と比較すると、星取表で白星を取れるところなんてひとつもないと思うので(笑)、それでも「あのクルマがいい」って思える空気を作れたというのは大きいですね。

―古着も、やたら重かったり、全然暖かくなかったり、でもそれを着ている自分を楽しみたいという気持ちが一番の購買意欲につながる部分だと思うので、ファッションに気を使っている方々から支持されているのもよくわかります。

アパレルも好調、FREAK’S STOREとのコラボへ

―最初からアパレルやグッズの展開をしていこうという思いはあったのでしょうか?

南部さん:やっぱりカーライフをご紹介しているので、着るものもふくめてご提案していきたいという思いはありますね。

……と、いつも言うようにしているんですが、正直、最初は仲間内だけで着る予定で作ったんです。
それでルックブックの真似事のようなことをしていたら、人気が出たのでそのまま調子に乗って今にいたるという感じですね(笑)。

さらに調子に乗りつづけていたら、FREAK’S STOREとのコラボが決まりました。
スウェットとフロアマット、あとペール缶にクッションをつけてスツールにしたものなどを展開しています。

ペール缶っていうのは丸形のバケツみたいなものなんですが、クルマの整備をするときに使われることが多いんです。

それからクルマの中に入れておいて、寒くなったらひざ掛けにしたり、リアシートに引っかけて撮影してもらったりしてもいいなと思って、ブランケット。
商品撮影はどれも楽しみながらやらせてもらいました(笑)。

南部さん:やっぱり車屋なので、クルマに関わるアイテムにこだわりました。
でもクルマを持たない方にも使いやすいと思います。

クルマ好きが集まる飲食店も開店予定

飲食店OPEN告知画像
(飲食店OPEN告知ビジュアル/tokyo basic car club提供)

南部さん:実は2024年3月には、カフェも出店しようとしているんですよ。
世田谷エリアに、もちろんクルマで来られるように駐車場付きで。

いま、都内でクルマ好きが集まれる場所はなかなかありません。
食事しながら語り合うというとPAくらいでしょうか、目的地というより移動の中間地点ですよね。
イベントも盛り上がり、どんどん人口が増えているのを感じるので、僕らがカーカルチャーの発信拠点を作って、より広げていきたいと思っています。

―たしかに集まれる場所がなければコミュニティも形成しにくいし、文化として廃れていって「クルマ離れ」につながるということもありますよね。

南部さん:TBCCのメンバーと毎回イベントに来てくださる方々、YouTubeに出演してくださった方々……どんどん“界隈”が大きくなってきているのを感じるんですよ。
さらにクルマ好きの輪を大きくできるような場所にしたいと思っています。

飲食店を探すなら食べログ、古いクルマを直すなら?

―自動車業界、中古車業界がいま抱えている課題はなんだと思いますか?

南部さん:やっぱり若者がクルマを買っていないという現状は、ひとつの大きな課題だと考えています。
ちょうど僕らが扱っている80~90年代って若者のクルマブームのピークだったようで、「デートカー」なんていうのも作られていたんです。

いまでは考えられない発想ですが、女の人とデートするために男の人が購入するクルマですね。
「これに乗っていれば女性からモテる」といわれるようなクルマが作られていたんですよ。

いまもデートカーを作るべきだということではなく、「若者がクルマを買う」という前提があったから、メーカーはこぞってそういったキャラクター性を持ったクルマづくりを企画していたんだと。

クルマ業界だけでなく、どこもそうだと思うんですが、やはり次世代に広まっていかないとメーカーも個性のあるモノづくりをしにくいと思います。
若者が買わない→メーカーも新しいモノづくりに挑戦しない→さらに若者が興味を示さない、という負の連鎖が起きているのではないでしょうか。

―そういった考えから、それまでクルマを買う予定のなかった層にリーチできるようなプロモーションを行っているんですね。

南部さん:僕らの場合、マスに向けて大規模に発信するというよりも、自分たちが「かっこいい」と信じているクルマやカーライフをYouTubeやSNSで紹介して、ひとりずつ地道に、でも着実にクルマ好きを増やしていくという活動が向いていると思っています。

そうしたらトヨタさんに共感していただけて、一緒にプロジェクトを完遂できたので、業界全体もこれからちょっとずつ変わっていく、むしろ変えていけるのかなと考えているんですよね。

業界の閉ざされた仕組みに革命をもたらすアプリを開発中

南部さん:あとクルマ業界は閉ざされている部分が大きいというのも課題だと思っています。

たとえば飲食店を探すなら食べログ、美容室を探すならホットペッパービューティーというふうに、いまやほとんどのことを、だれでも知りたいときに気軽に見つけることができるじゃないですか。

でも古いクルマって、「買ったはいいけど修理はどこに持っていけばいいの?」といった情報が開かれていないんですよね。

すでに何年も前から乗っている方であれば、人伝いに、あるいは昔からの付き合いのある人に、といったかたちでツテをたどって修理工場に行き着くこともあるかもしれませんが、買ったばかりの方や周りにクルマを持つ人のいない若年層だとそうはいきません。

そういった情報をもっとオープンにしていきたいという考えのもと、だれでも気軽にくわしい人に相談したり、レビューをもとに適合するパーツを選べたりできるアプリの開発を始めたんです。

たとえばおじいちゃんが営んでいる町の小さな修理工場があって、腕はたしかなのに発信力がないばかりに認知されないままというケースがあったとして、そこを利用したユーザーがレビューしていくことで評価が高まって、ちゃんと知られるようになるということもあると思います。

―そうなると、よいことも悪いことも表面化するので、修理や整備を行う方も適切に仕事をしようという意識やモチベーションが高まりそうですね。

南部さん:あとアプリの普及によって個人売買のハードルも下げたいと考えています。
日本では個人からクルマを購入する方ってまだまだ少ないですが、海外ではもっと一般的なんですよね。

現状、中古車の価格は同じ車種・グレードの場合、ほぼ走行距離で決まります。
でもはたして「長らく放置している低走行のクルマ」と「走行距離は長いけどこまめにメンテナンスを行っているクルマ」、どちらのほうが状態がいいのでしょうか?

僕らのアプリでは整備記録も管理でき、それが売買するときの金額にも影響されるようにするつもりです。
大事に扱えば、クルマの価値を高めて将来に残すことにつながるので、販売価格にも反映されるべきですよね。

しかも整備記録って、基本的に紙で残されるので管理が大変なんですよ。
統一した規格でアプリ上で管理することができたら、売買するときだけではなく、次のメンテナンスの時期を把握するときも役立ちます。

アプリ画面
(出典:前出)

―「管理が面倒だから」とクルマを敬遠していた方もとっつきやすくなりそうですね。

将来的にはクルマブームの真ん中に

―今後の展開としては、アプリのリリースとカフェの出店が控えていると思いますが、その先、将来的にはどういった計画を立てていますか?

南部さん:アプリについては資金調達を進めているところで、ちょうど1年後、2024年の10月ごろのリリースを予定しています。
そのうえで、おっしゃるように僕らの地盤になるようなコミュニティを形成するために、カフェをはじめ、YouTubeなどいまの活動をさらに加速させていく予定です。

それによって最終的には、クルマを好きな若い人をひとりでも多く増やしていきたいですね。
若者のあいだでクルマブームがもう一度訪れて、その火つけ役が僕らではなかったとしても、その真ん中にはいたいと思っています。

クルマを仕事に選んだ僕も、月に1回くらいしか作れない休みの日にドリフトしにサーキットへ行っているくらいなので、クルマにはやっぱり人を熱狂させるなにかがあると思うんですよね。

僕らのお客さまはそれまであまりクルマに興味があったわけではない方が多いとお伝えしましたが、クルマを購入して、その後乗り換えるという方はいても、飽きたという方は聞いたことがありません。
乗ったらやっぱりその魅力に気づくんだと思います。

モノとして好きな人もいれば、ツールとして好きな人も、ファッションとして好きな人もいるので、グッドポイントはそれぞれだと思いますが、まだ気づいていない方はまず乗ってみてほしいですね。

購入されたお客さまのもとに納車に行くと、渋いおじさまもクルマ初心者の若い子も、みんな同じように目を輝かせているんです。
15分くらい前に着いてしまっても、すでに家の前で待ってくださっていたり、「前日眠れなかったです」とおっしゃる方がいたり、毎回「尊いなー」なんて思います。
高い買い物にはなりますけど、僕らがやっていることは間違っていないんだなと確信しますね。

その場にあるすべてのプールを体験したい

tokyo basic car clubのアパレル

納車に伺うとお客さまが目をキラキラさせて待っている、とおっしゃっていた南部さんの目もやはり輝いていたのが印象的なインタビューでした。最後に、これから独立や起業を目指す方に向けてメッセージをいただきました。


起業を検討中の方へMessage
僕の場合は、クルマを買い、起業したことで人生が始まったという感覚があるんですが、慎重派なのでそれまでかなり悩みました。クルマも好きだし、起業したいという思いもずっと抱えていたはずなのに。

26くらいになって「いま始めないとやらなくなってしまうかもしれない」という焦りから、ようやく踏ん切りがつきました。

いまとなってはもっと早くにやっておけばよかったと思うので、独立や起業に興味のある方はすぐに行動にうつしたほうがいいと思います。うまくいかないこともありますが、後悔はしないはずです。

あと個人的には「もったいない精神」が強くて、先日、沖縄旅行をした際に宿泊したホテルにプールが3つあるのを見たときも、全部に入らなきゃ納得できないと思ったんですよね。人生も同じように、興味があるのに体験せずに終わるのは嫌です。

やらないくせに「どうせこんなものだろう」と決めつけるのは、諦めているだけだと思います。せっかく親御さんが与えてくれた人生なので、やりきりましょう!

(株式会社tokyo basic car club 代表取締役 南部翔也さん)
SHARE
FacebookTwitterLineHatenaShare

この記事を書いた人

浦田みなみ
元某ライフスタイルメディア編集長。2011年小説『空のつくりかた』刊行。モットーは「人に甘く、自分にも甘く」。自分を甘やかし続けた結果、コンプレックスだった声を克服し、調子に乗ってPodcastを始めました。BIG LOVE……

UPDATE 更新情報

  • ALL
  • ARTICLE
  • MOVIE
  • FEATURE
  • DOCUMENT